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進取の将棋BACK NUMBER
「ああ、やっぱり。なす術がない」藤井聡太21歳はクジ運も「最善手」…“画面に映らない”羽生善治53歳ドラフト裏話を中村太地36歳が明かす
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph byAbemaTV, Inc
posted2024/06/08 17:00
ABEMAトーナメントのドラフト会議。羽生善治九段の指名で藤井聡太八冠と稲葉陽八段と競合した中村太地八段
考えてみれば私自身も残留争いの渦中にあって、実は誰よりも緊張感を出していたのではないか――と反省するところがありますが、例えば藤井八冠に挑む王将戦の真っただ中だった菅井竜也八段は〈常に将棋のことを考えているのだろうな〉と感じました。
さて、皆さんも知りたいであろうドラフト指名の打ち明け話ですが……私は開催1週間前くらいから本格的に考えていました。いやもっと言えば、A級昇級を決めた直後から「メンバー、どうしようかな?」と漠然としたレベルでは考えていたかもしれません。
藤井さんが指名権を取ったら、すごいなあ
その中で1つ決めていたのは「1巡目指名は羽生(善治)先生で行きたい」でした。第4回、第5回ともに1巡目指名してくださったのが私自身、本当に嬉しいことでしたし、リーダーとなった今回はぜひ……と強く思っていました。
ただ冷静になると〈羽生先生は私以外のリーダーも誰かが指名してくるはず〉と考えざるを得なかった(笑)。そこで「クジが当たった時パターン」「外れた時パターン」両方で、2巡目指名まで含めて考えていたんです。
羽生先生を指名したのは私と藤井八冠、稲葉八段でした。その瞬間の心境は、ですか? はい、「そりゃやっぱり、かぶるよな」です(笑)。どこかで単独指名できる期待も少しはしていたのですが、やっぱりそうだよね……と思うと同時に、クジ引きの箱の前に立った瞬間、ちょっと俯瞰してこんな感覚だったんです。
〈これで藤井さんが指名権を取ったら、すごいなあ。クジ運まで強いのかな〉
「ああ、やっぱり」クジ運まで最善手とは
見ていない方のために説明しますと、アベトナのドラフトは「予備抽選(クジを引く順番を決める)→本抽選」という流れで進みます。予備抽選を引くのは序列が高い順で、タイトルホルダーの藤井八冠が1番手でした。
そこで藤井八冠は1番目にクジを引く権利を手にして、さらに本抽選で3分の1の確率の当たりクジを引く……。