炎の一筆入魂BACK NUMBER
カープ栗林良吏が完全復活で「常にゼロを目指す」昨季の不調を乗り越えて、守護神が今季1失点の好投を続ける秘訣
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PRESS
posted2024/05/09 11:02
WBCでの負傷以来、本来の投球ができなかった昨季と比べ、今季は見違えるような投球を続けている栗林
「重圧とプレッシャーしかなかった。自分より結果を残した選手がいる中で、任せてもらえたことは自信にしないといけない。昨年の悔しさを結果で恩返ししたい」
チームには昨季栗林が離脱する間に24セーブを挙げた矢崎拓也もいる。また、昨季リーグ最優秀中継ぎ投手の島内颯太郎が抑えにコンバートされても不思議ではない。他にも候補選手がいる中、早々に指揮官から守護神に指名されたことで、原点に立ち返ることを決意した。
「1年目は試合展開に関係なく同じ気持ちでマウンドに上がっていたんですけど、2年目以降、特に3年目は3点差あったら2点取られていいとか、2点あったら1点取られていいとか、そういう気持ちで上がっていました。でも、自分にはそれが合っていないのかもしれない。常に同じ状態、同じ気持ちで、どんな展開でもゼロを目指すことでベストパフォーマンスを出せるし、準備もしやすい。今年は初心に返って、そういう気持ちでやりたい。緊張したまま行きたい」
自分の1球が先発投手に勝ち星を付け、チームの勝敗を決める。背負ったものにしか分からない重圧のもと及第点を設定することは、逃げではなく防衛本能でもあったのかもしれない。だが今季は逃げ道をつくらず、自らを追い込む。
「緊張して、準備して、マウンドに上がるからこそ、打たれたときに辛い。それでもマックス143(試合)。CSやシリーズがあっても、2カ月は(リカバリーできる)休みがある。今年は1年目のように常にベストを目指したい」
今季唯一の失点の理由
4月25日のヤクルト戦では、同点の9回に1死走者なしからサンタナに右中間席に運ばれ、今季初黒星となるサヨナラ本塁打を浴びた。カウント1‐2と投手有利のカウントから高め直球を捉えられ、悔やまれる1球となった。
「高さよりもコースじゃないですか。サク(坂倉将吾)がどういう意図でストレート(のサイン)を出したか分からないですけど、自分が空振りを取りに行ってしまった。違う選択肢を持てれば、整理できれば、最悪の結果にはならなかったと思います」
いつも冷静に自分の頭の中を表現する栗林の言葉が、いつになく怒気を含んでいた。着弾を見届けた直後、ベンチに最小限の荷物を取りに戻っただけで、クラブハウスまでの帰路での取材対応だったこともあるだろう。極限にまで気持ちを高ぶらせる今年のスタイルの一端でもあった。後日、冷静に説明してくれた。