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「渡邊雄太は泣き言を一度も言わなかった」NBA記者が見守った壮絶な11年間…ファンや家族の想像を遥かに超えた「清々しい終止符」
text by
宮地陽子Yoko Miyaji
photograph byUSA TODAY Sports/Reuters/AFLO
posted2024/04/24 11:02
NBAデビューから6シーズンにわたってプレーした渡邊雄太(29歳)
11年前に渡邊がアメリカ挑戦を選んだとき、渡邊の父、英幸さんは地元、香川のテレビ局のインタビューを通して息子にこう伝えた。
「アメリカでバスケットボールをやるのは生半可なものではない。でも、途中で逃げ出したくなっても帰る家はないということは、雄太が一番よくわかっているよな?」
後にそのことを話してくれたときに、英幸さんはこうつけ加えた。
「雄太が自分で決断した道なので、どんな苦難があっても泣き言は言わないと思います。バスケが大好きですから」
父から息子への大きな信頼があってこその、厳しい言葉だったのだ。
父が言ったように、それから11年間、アメリカで戦い続ける渡邊を取材してきたなかで、彼の口から泣き言を聞いたことは一度もなかった。苦しい心のうちを正直に話してくれたことはあったが、それは彼なりの、壁に立ち向かう決意表明のように聞こえた。
「ネガティブな発言はしない」
渡邊と初めて会ったのは、彼が渡米した約4カ月後、2014年1月のことだった。コネチカット州のプレップスクール、セントトーマスモアの体育館にあるヘッドコーチのオフィスで、渡邊はきっぱりと「NBAが目標」と語り、アメリカでのチャレンジについて目を輝かせて語っていた。その中で、こんなことを言っていた。
「僕、あまりネガティブな発言はしないし、思わないというふうに決めているんですよ。だから、あまりマイナス発言はしません。よくみんなに、日本に帰りたいかって聞かれるんですけれど、帰りたいとか思わないですし、口にも絶対に出さないです。意識的にマイナスなことは考えないようにしています。別に誰かに言われたわけじゃないですけれど、マイナス発言ばかりするのはあまりいいことじゃないなって思うんで。別にそんなにポジティブではないですけれど、あまりネガティブにはならないです」