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「渡邊雄太は泣き言を一度も言わなかった」NBA記者が見守った壮絶な11年間…ファンや家族の想像を遥かに超えた「清々しい終止符」
text by
宮地陽子Yoko Miyaji
photograph byUSA TODAY Sports/Reuters/AFLO
posted2024/04/24 11:02
NBAデビューから6シーズンにわたってプレーした渡邊雄太(29歳)
昔から、渡邊が父に何度も言われていた言葉があった。
「いい意味で僕らの期待を裏切ってくれ」
尽誠学園で頭角を現し、その後、NBAを目指して渡米。まわりから大きな期待をかけられていた渡邊に、期待をプレッシャーと感じたり、期待に押しつぶされるのではなく、むしろモチベーションとして、期待をさらに上回るような活躍を見せてほしい、という思いからの言葉だった。渡邊自身、まわりからの期待をプレッシャーだと感じたことはなかったと言う。それは、まわりの期待よりも、自分の自分に対する期待、決意のほうが大事だったからなのかもしれない。
その結果、この11年間で渡邊は家族の期待、日本のファンの期待を超える結果を残してきた。後にNBA入りするような有望な選手たちが集まるプレップのリーグで活躍し、NCAAディビジョンIのジョージワシントン大で1年のときからローテーション入りし、NITトーナメントに優勝し、チームではキャプテンも務めた。4年のときはアトランティック10カンファレンスの最優秀ディフェンス選手に選ばれ、オールカンファレンスチームにも選ばれた。大学卒業後にはドラフト外からNBAのツーウェイ契約を勝ち取り、3シーズン目には本契約も勝ち取り、去年夏には全額保証された2年契約を勝ち取った。昨季はシーズンの一時期とはいえ、半月ほどの間、3P成功率でリーグ首位にいたこともあった。
10年前の取材で、東京オリンピックについて聞いたときに「オリンピックには出たいです。そのときにNBAでプレーできていたらベストですよね」と言っていたが、それも達成した。さらに、パリ五輪の出場権まで勝ち取った。間違いなく、期待を上回り続けてきた11年だった。
「清々しい」と断言できた理由
自ら掲げた「NBAの平均キャリア年数の5シーズン以上NBAで続ける」という目標をも上回る6シーズンをNBAで過ごし、レギュラーシーズンとプレイオフ合わせて218試合に出場した。そして今回、来季の契約継続の選択権を自ら放棄して日本に帰国するという決断をした。
その決断を「清々しい」と断言できるのは、みんなの、そして何より自分自身の期待を超える11年間を過ごすことができたという自負があってこそだったに違いない。