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ドラフト指名漏れ“21歳の日本人”がドジャースと契約した11年前「ヤベェところに来ちゃった」マイナー解雇を経て…会社員&投手コーチの今
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNanae Suzuki
posted2024/04/21 06:00
大谷翔平や山本由伸の活躍で注目されるメジャーリーグだが、誰もがそのサクセスストーリーを踏んだわけではない
マイナーリーグの現実
競争から抜け出すためには、実力だけではなくチームの方針も影響する。当時はピッチャーのスピード化が進んでいたため、コントロール重視の西嶋のようなタイプの需要が高くなかった。さらに、1年経てば新しい選手が入ってくる。後に最多勝を挙げることになるフリオ・ウリアスは同じサウスポーだったし、競争は激しくなるばかりだった。結果的にいうと、西嶋はその競争に敗れたわけである。
「(メジャーは)とんでもなく遠いところだなと思いました。こんなに壁が厚いのかと。ドラフトされてすぐ1年目でメジャーにいけるわけないと思いました。日本みたいに開幕一軍のようなことは難しい。どんなにすごい選手であっても1足飛びで出れるほど甘くない世界でした」
大きな壁に阻まれた西嶋だからこそ、それを乗り越えた選手たちに対するリスペクトは誰よりも持っている。西嶋とはここ数年、野球談義をさせてもらっているが、「日本人選手が苦労している」という話をすると、怪訝な表情で「どれだけすごい世界かわかって言ってますか」と問い返されることもしばしばだ。マイナーを知るからこそ、その壁の高さがわかる。今、メジャーで活躍する選手への尊敬の念は深い。
「マイナーから這い上がられたマック鈴木さん、たず(田澤純一)さんは本当に神のような存在です。(日本に復帰した)筒香嘉智選手がマイナーでもがいているという報道がありましたけど、そりゃそうですよ。考えてみてください。彼は日本で一番のバッターでした。でも、あそこの世界には、俺はNo.1になるんだって連中が集まってくるんですよ。そこで頂点を極めた選手たちがメジャーリーガー。そういう世界なんです。
そして、その世界で誰もやらなかったことを実現している大谷選手のすごさ。メジャーでNo.1に近いことを平気でやっている大谷選手がどれだけすごい選手かっていうことをもっと感じてほしいなと思います」
大谷翔平は花巻東高校3年のとき、一度、高卒でのメジャーリーグ挑戦を表明している。2012年のことだ。ドジャース入団がほぼ決定的という報道もあった。仮に、あのまま彼が日本ハムとの契約をせずに海を渡っていたなら、西嶋とチームメイトになっていた可能性がある。