- #1
- #2
サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
「岡ちゃん、本当にオリンピック行けるぞ」岡崎慎司が“クビ候補”から一気に日本代表に駆け上がった日「あの衝撃は今も忘れられない」
posted2024/04/10 11:01
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph by
JMPA
今シーズン限りでの現役引退を表明した岡崎慎司(37歳)。日本代表歴代3位となる50得点を記録した偉大なストライカーの歩みを、新人時代からサポートするトレーナー杉本龍勇氏の証言で振り返る。(NumberWebインタビュー全2回)
ちょっと、いや、かなり心配だった。
2005年、チームが始動したばかりの頃のことだ。この年、清水エスパルスのフィジカルコーチに就任した杉本龍勇は、岡崎慎司という背番号23の高卒ルーキーの動きを見て、面食らった。杉本自身にサッカー経験はない。それでも、はっきりわかった。
「一言で表すなら、へたくそ。見た目もプレーも、田舎から上京したばかりの少年という感じで。正直、どうしてこの子がプロになれたんだろう、1年でクビになっちゃうんじゃないかって思っていました」
同じ高卒新人の枝村匠馬や青山直晃、岩下敬輔と比べて、ボールタッチの技術も身体能力も劣っている。さらに陸上の短距離ランナーとしてバルセロナ五輪にも出場した杉本から見て、明らかな欠点があった。FWとしてのスピードが足りない。
「岡ちゃんは、とにかく足だけで走っていた。頑張り屋だから、滝川二高時代も、チーム練習が終わった後に、1人で何本も何本もダッシュを繰り返していたそうです。でも、下手な走り方で練習すればするほど、もっと下手になるんです」
ただし、「へたくそ」で「鈍足」な新人FWは、底抜けに明るかった。リーグ戦開幕が間近に迫り、新加入選手もようやくチームに馴染んできた頃だ。岡崎は杉本のもとへやって来て、目を輝かせながら言った。
「俺、とにかく足が遅いんで、足が速くなりたいんです!」
自分の短所と、真正面から向き合える。これぞ、岡崎の武器の一つだった。