「広岡達朗」という仮面――1978年のスワローズBACK NUMBER
「広岡さんは結果論で判断しない人。それに比べて野村さんは…」広岡達朗と野村克也の“最大の違い”とは? 杉浦享が語る「ホンネの名将論」
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2024/03/30 11:02
ともにヤクルトを日本一に導いた広岡達朗と野村克也。両者のもとでプレーした杉浦享は、「結果論」をキーワードに二人の違いを語った
「優勝直前にジャイアンツと試合をしましたよね。相手は堀内(恒夫)さんが先発でした。あのときはもう、みんな手と足が一緒に動くぐらいガッチガチに緊張して手も足も出なかった(笑)。僕らが優勝するには初回から一気に点を取る形が理想的だと思っていたけど、実際にそうなりましたよね」
杉浦が口にしたのは10月2日、神宮球場で行われた対ジャイアンツ最終戦のことだった。堀内の前に散発5安打で完投負けを喫していた。しかしその2日後、彼が口にした「初回から一気に取る」試合が実現する。マジック1で迎えた4日の中日ドラゴンズ戦である。
チーム初のリーグ制覇に見事に貢献
この日、神宮球場には公称4万3000人の観衆が詰めかけた。前夜には8回裏に4点を挙げる「ラッキーエイト」の猛攻で見事な逆転勝利を収めていた。緊張感を漂わせながらも、選手たちは充実していた。そして、この日も初回からスワローズ打線はドラゴンズ先発・戸田善紀に襲いかかった。
「いきなり先頭のヒルトンがホームランを打ったでしょう。あれで勢いがつきましたよね。おかげで僕も初回にツーランホームランを打てました。初回に一挙4点を挙げれば、あとはもう自然に勢いづきますよね。これで、身体中を縛っていた鎖がボロボロ壊れていくような気がしましたから」
その言葉通り、スワローズ打線は初回に4点、2回に3点、3回に1点を記録し、序盤で勝負を決めた。先発の松岡弘は危なげないピッチングでドラゴンズ打線をまったく寄せつけない。そしてついに、その瞬間を迎えた。
「谷沢(健一)さんの打球がヒルトンの前に飛んだ瞬間にもうマウンドに向けて走り出しましたよ。試合終了の瞬間、いきなりお客さんがなだれ込んできて、グチャグチャになりましたよね。だから、“えっ、オレはどこに行けばいいんだろう?”って迷いました(笑)。あの瞬間は、本当に最高の思い出ですね」
日本シリーズの相手はパ・リーグを制した阪急ブレーブスに決まった。杉浦は笑みをたたえたまま、吐き捨てるように言った。
「勝てるわけねぇだろうって(笑)。僕だけじゃなく、全員が思っていたと思いますよ。“せいぜい、一つ勝てればいいかな?”という感じじゃないのかな?」