「広岡達朗」という仮面――1978年のスワローズBACK NUMBER
神がかったサヨナラ勝ちを連発…“1978年の広岡ヤクルト”に何が起きていたのか? 杉浦享の証言「星野仙一さんのボールの握りが見えたんです」
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph bySankei Shimbun
posted2024/03/30 11:01
1978年9月20日の中日戦、星野仙一から逆転サヨナラ3ランを放ち、喜びを爆発させるヤクルトの杉浦享
「みんな勝利のために必死でしたよ。いい結果が出るから、自分のできることは積極的に何でもやっていましたから。今でも覚えているのは、優勝争いが佳境だったカープとの天王山の試合で、マニエルがセーフティバントをやったんです。彼はああ見えて、バントが上手なんです。自発的にやったのか、サインだったのかは忘れてしまったけど、あの場面はすごく印象に残っています」
杉浦が口にした試合は9月17日、仙台で行われた対広島東洋カープ21回戦での出来事だった。5対5で迎えた8回裏、無死一、二塁の場面でマニエルはバントを試みている。それまで3三振といいところがなかったマニエルだが、このバントが相手の野選を誘い、無死満塁とチャンスを広げたスワローズは、続く大矢明彦のタイムリーヒットで2点を奪って勝利を収めている。
「いつの試合か忘れたけど、1アウト一塁の場面で、大矢さんがセーフティバントを決めたこともありました。もうイケイケだから、みんながいろいろなことを試していましたね」
神がかっていた、3夜連続サヨナラ勝利
この年のスワローズ打線を象徴する試合がある。9月19日~21日にかけて、静岡・草薙球場、神宮球場で行われた中日ドラゴンズとの4連戦だ。19日、静岡でのダブルヘッダー2戦目、20日、21日の神宮での試合で3連続サヨナラ勝利を飾ったのだ。その主役となったのが杉浦である。
「3試合連続サヨナラ勝ちのことはよく覚えていますよ。本当にすごかったから。でも、実は浜松での試合ではオレのチョンボで1点を取られているんですよ。記録はエラーになっていないんだけど、捕れそうなボールをポロッとやって落としてしまった。だから、船田(和英)さんのサヨナラホームランは本当に嬉しかったんです」
翌20日は、9回表を終えて0対2で敗色濃厚だった。しかし、大杉、マニエルの連打で無死一、三塁のチャンスを作ると、杉浦に打順が回ってきた。