マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
最速148キロの強肩も「10:0で内野手です!」…“二刀流”の期待はどこ吹く風 ベテラン記者が見た《今宮健太2世》中央学院・颯佐心汰の「野球小僧」
posted2024/03/27 06:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
JIJI PRESS
試合開始前、ダグアウト前でキャッチボールを繰り返すその姿から、もうモノが違っていた。
強烈なスナップスロー。肩から先が、よく伸びる高級なゴムで出来ているような弾力性抜群の腕の振り。しなやかさと強靭さの両方を備えた腕の振りから、白球が一直線に糸をひく。
昨年秋の関東大会・準々決勝、相手は強敵・健大高崎高。
まだ試合前なのに、素足のように軽やかなフットワークが加わったそのキャッチボールに、もう、この目がくぎ付けになった。
キャッチボールからモノが違った「鉄砲肩」
中央学院高の遊撃手が、「颯佐心汰」ということは、スターティングメンバーのアナウンスで初めて知った。名前を「さっさ・ここた」と読むことも、ほかの記者に教わった。投手としても、軽く140キロ台を続けてみせるという。
そりゃそうだ、これだけの腕の振りだ。指先から弾き出された白球と一緒に、その右腕までがスポッと肩から抜けて、吹っ飛んでいってしまうんじゃないか。そんな空想さえ浮かんでしまうほどの、ゾクッとするような「怖さ」すら秘めている。
2点リードされた6回だ。
2死から痛烈な中前安打で出塁した3番颯佐心汰遊撃手。次の4番中村研心二塁手の右中間三塁打で、一気に生還したその「足」の速いこと、速いこと。スタートの一歩目から生還を確信した走り。ストライドが大きいのに、ピッチが速い。ベースターンの減速もなく、あっという間にひと回りしてきた……と表現するしかほかにない圧倒的なスピード感。
この鉄砲肩、この快足、そして全身からあふれる躍動感と、弾けるようなバネの良さ。何より、プレーできる喜びが発散される野球小僧ぶり。
今宮だわ。
思わず、つぶやいていた。
そしてこの春、センバツの甲子園で久しぶりに再会した「今宮」は、間違いなくひと回り逞しいユニフォーム姿になっていた。