甲子園の風BACK NUMBER
「プライベートな時間がなく…」被災・日本航空石川球児がセンバツで口にした“本音”「練習できず悔しさも」「踏ん張って甲子園で成果を」
posted2024/03/27 11:05
text by
間淳Jun Aida
photograph by
JIJI PRESS
笑顔、感謝、恩返し。
日本航空石川は3つのキーワードを胸に聖地に立った。今春の選抜高校野球大会で、1回戦の最後に登場。雨で2日順延し、この日も甲子園には小雨が降る。スタンドは空席が目立つ。それでも、観客の少なさを感じさせない拍手と声援が選手たちを包んだ。試合後、中村隆監督が回想する。
「スタンドの皆さんが本当に温かくて。暮らす場所が変わって思い通りの生活が送れなかった時を思い出してしまいました」
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常総学院に0-1で敗戦。9回は同点のチャンスをつくった。悔しさは当然ある。ただ、それ以上に甲子園でプレーできたこと、背中を押してくれた声援がうれしかった。
野球ができる喜びを体現したショート
野球ができる喜びを体現し、スタンドを最も沸かせたのは「2番・ショート」の北岡颯之介選手だった。0-0の4回、先頭で打席に入る。1ストライクからの2球目。真ん中に入ってきた101キロのカーブをセンター前に運んだ。初球との球速差は29キロ。直球にタイミングを合わせながら、甘い球に自然と体が反応した。
何としても手にしたい先制点。北岡がマウンド上の常総学院・小林芯汰投手を揺さぶる。初球を投げるまでに2度の牽制球。フルカウントからは、二塁へスタートを切って一塁へ戻る動きで球場を沸かせる。6球目。北岡が再びスタートを切る。打者は空振り三振に倒れたものの、二塁を陥れた。
「サインはエンドランでした。三振でダブルプレーは試合の流れを失うので、打者が空振りしても二塁でセーフになれるように盗塁のつもりでスタートしました。相手投手は牽制が上手かったので、リードは普段より1歩半小さい3歩半にして良いスタートができるように集中しました」
160センチの小柄な体を目いっぱい使ったゲッツー
後続が凡退して得点にはつながらなかったが、北岡は身長160センチ、体重60キロとチームで最も小柄な体をいっぱいに使って塁上でも仲間を鼓舞した。
最大の見せ場は、1点リードされた9回表の守備だった。1死一、二塁のピンチ。1点が致命的になる場面で、常総学院・杉山陽大選手の打球が二塁ベース付近を襲う。センターへ抜けて1点と思われた打球に、ショートの北岡が体を伸ばして飛びつく。捕球してセカンドへグラブトス。セカンドがファーストに送球してダブルプレー。追加点を覚悟したスタンドの悲鳴を一瞬にして大歓声に変えた。