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プロ野球PRESSBACK NUMBER
「あれは忘れられない…」阪神・岩崎優が今も悔やむ痛恨のマウンド…“タイトルが消えた”大竹は「岩崎さんが2日間、落ち込んでいたと聞いて…」
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byNanae Suzuki
posted2024/03/06 11:02
岩崎は新シーズンに向け静かに牙を研ぐ
地位を築き、名声も得た。それでも、威勢のいいことを言わず、地に足をつけて日々を過ごしている。きっとこの人は、戦うことに畏れを抱いているのだろう。
忘れられない大竹の言葉
「あれは忘れられないですね……」
リーグ優勝の充足感が吹き飛ぶほどの悔しさを味わったのは初秋の頃だ。公式戦最終戦だった10月4日のヤクルト戦。岩崎は1点リードの9回、神宮のマウンドに上がった。勝てば、先発していた大竹耕太郎がセ・リーグの勝率第一位のプロ初タイトルを掴む状況だった。だが、先頭の青木宣親に中前打を許してピンチを招き、踏ん張れずにサヨナラ負けを喫した。
敗戦直後、マウンドを降りると、ベンチ前に現れた大竹に謝った。すると、笑みすら浮かべる大竹に言われた。
「助けてもらっていることの方が多いので、全然、気にしないでください。また、来年、やりますから」
「タイトルがかかっているのは分かっていました」
一瞬だけ救われた。だが、罪悪感は消えない。休日だった2日間は打たれたことばかりが堂々巡りした。大竹も振り返る。
「僕はすぐに来年に、と切り替えられたんですが、岩崎さんが2日間、落ち込んでいたという話を聞いて、それほどまでだったんだと思いました」
岩崎はあの試合を回想する。
「自分の中で普通にできなかったですね。大竹のタイトルがかかっているのは、もちろん分かっていました。そういう点で、ちょっとそんな意識があったんです」
「普通にやる」ことの難しさ
経験豊富なリリーバーである。いつもなら何事もなかったかのように飄々と抑えていたはずである。だが、この日ばかりは登板前から心に引っかかるものがあった。わずかな気持ちの乱れが投球を狂わせてしまった。
「交流戦でも大竹が先発の時に打たれてしまって『それがなければ』とか考えてしまったんです。そういう気持ちになってしまったことで、余計、最後、自分にプレッシャーをかけてしまっていた。監督は去年『普通にやったらいいだけ』とよく言っていました。普通にやれたらよかったんですけど、普通にやれなかった。大竹には、申し訳ないなと思いました」