NYメディアも来た…イチローの入団

　次に大きなメディアサーカスが起きたのは、イチローがマリナーズに入団したときだ。筆者は1年目のキャンプに取材に行っていたので、古い取材ノートを引っ張り出して見返しながら当時を思い起こしてみた。イチローが朝、何時にキャンプ施設に入って、何時にこれをして、何時にどこに移動して、という1日の行動や練習内容が事細かに書いてある。

マリナーズ時代のイチロー（2003年）©︎Naoya Sanuki

　選手の入り待ちと出待ちは当時から欠かせない日課で、朝早くからキャンプ施設に行ってイチローの入りを待ち、練習や試合が終わって施設を後にするのを見届ける。早朝から夕方まで、誰よりも長い時間、キャンプ施設にいるのが日本のメディアといっていいくらいだった。イチローが動くたびに大勢の記者やカメラマンもぞろぞろと後を追いかけ、その光景は米国人たちにとっては奇異に映っただろう。シアトル・ポストインテリジェンサーという地元紙で当時マリナーズ番をしていたジョン・ヒッキー記者は「イチローより1年早くササキ（佐々木主浩）がマリナーズにいたので、僕自身は大勢の日本人記者にはそれほど驚かなかったが、初めて見る米国メディアはびっくりしたと思う。ただ、ESPNとかニューヨーク・タイムズ紙のような全米の主要メディアまで取材に来たのは驚いた。ここまで注目を浴びるルーキーは初めてだ。イチローは別格だと感じた」と話していた。

　イチローと同じ年に同じくメジャー初の日本人野手としてメッツでデビューした新庄剛志（現・日本ハム監督）にも、やはり大勢の日本メディアが集まった。イチローのように全米から注目を集めたわけではなかったし、ニューヨークではすでに伊良部によって日本のメディアの多さに関しては免疫があったかもしれないが、それでも最初のスプリングトレーニングに日本のテレビカメラだけで5台も取材に来たことには驚かれた。

　日本メディアを巡るちょっとした騒動が起こったのは、新庄がジャイアンツにトレードで移籍した2年目のことだった。

〈つづく〉