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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「ファイトマネーは副業扱い」サラリーマンボクサー阿部麗也30歳がついに世界王者に挑戦…上司や同僚もびっくり“上京ヤンチャ少年”の12年
text by
栗田シメイShimei Kurita
photograph byKiichi Matsumoto
posted2024/03/01 17:03
サラリーマンを続けながら、プロボクサーとして活躍してきた阿部麗也(30歳)。周囲のサポートに感謝しながら、いよいよ世界タイトル戦に挑む
黒川さんは、阿部の最大の理解者でもある。今でこそ会社も「プロボクサー阿部」に全面的に協力しているが、当初は違った。
阿部が勤務する藤沢工場では毎日2000人近い人々が行き交う。「安全・安心」を原則とした製造業において、危険と隣り合わせのボクシングという競技は、なかなか理解が得られないのも必然だった。ファイトマネーは副業扱い、勤務時間外の怪我は労災扱いにはなるのか。勤務規定から外れた、異例づくめな事例も多かったのだ。
だが、黒川さんは“親心”からデビュー戦を観戦したことを契機に、その魅力に惹き込まれていく。
職場とは異なる部下の空気感に触れ、今まで経験したことがない不思議な感覚を覚えたことを記憶している。何より、リング上で自己を表現する阿部という一人のボクサーのファンになった。以降、ほぼ全ての試合を現地観戦する黒川さんが先導し、応援団の数は一人、また一人と増えていき、今やその数は50人を超えた。黒川さんは、時に会社との間に入り、ボクシングに打ち込めるような環境づくりも提言している。
その理由は、朝8時から残業を含めて19時頃までフルタイムで働く阿部の勤務態度にあった。
「私からすればあいつも“怪物”」
「阿部は手先が器用で、他の人の半分くらいの時間で仕事をこなしてしまう。試合翌日でも、何事もなかったように出社し、フルタイムで働いていますから。心配で休めと提案しても、『迷惑をかけられないので』と断るんです。だから計量日と試合当日くらいです、あいつが休むのは。
一度、2018年に横浜アリーナの井上尚弥選手対パヤノ戦を阿部と一緒に観戦しに行ったんです。素人の私でも圧倒された70秒KOでしたが、あいつは『あの舞台に立ちたい』と言った。その時は想像もつかなかったですが、あれよあれよという間に本当に世界戦まできてしまいましたね」
今回はニューヨーク興行ということもあり、阿部は試合の10日前から休暇をとった。阿部にとって人生初の長期休暇を今回の世界戦に当てた。もちろん有給休暇を消化して、だ。間近でその努力を見てきた黒川さんは、こうも続ける。
「世界戦って、ボクサーにとっては念願の舞台でしょ。でも、阿部は普段と全く変わらずひょうひょうと仕事をしているんですよ。私からすれば、あいつも十分“怪物”です」