濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「もうプロレスやりたくない」負傷欠場中のSNS誹謗中傷…それでも人気女子レスラー・中野たむが復帰するまで「リングの上が、生きる場所」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/03/02 17:02
左膝内側側副靱帯損傷による長期欠場から復帰のリングに上がった中野たむ
普通なら「もう心配かけません!」と言うところだろう。でもそんな言葉で取り繕わないのが、たむの素直さであり強さ。
「仲間がいてファンのみなさんがいて、私は復帰できた。ずっと手をつないでいたから戻ってこれたんです」
誰の助けも借りない、とは言わないのだ。
「だって助けてもらわなかったら何もできないもん(笑)。心配かけたり不安にさせたりはこれからもあると思います。でも、みんなで前に進みたいんです」
ロッシー小川の契約解除「不安がないと言ったら嘘になる」
欠場している間、会社の不手際が表面化し社長交代という事態に。そんな時期にリングにいられない、ファンの前に立てない自分にもどかしさを感じてもいた。復帰した2月4日には、団体創設者のロッシー小川氏が契約解除。その理由は選手とスタッフの引き抜き行為とされている。「みんなにとってお父さんみたいな存在」だったという小川氏を失ったスターダムを、たむはどう捉えているのか。
「これからは小川さんがいない。そこに不安がないと言ったら嘘になります。私もキャリアの9割以上を小川さんのもとで過ごしているので。お父さんに褒められたくてやってきた部分もあるし、お父さんへの反発もありました。ただこれから“小川イズム”がなくなっても、選手それぞれに“スターダムイズム”がありますから。
やっぱり、選手とファンのみなさんで手を取り合って乗り越えていけたらと思います。両国国技館で久しぶりに見たスターダムのプロレスは、Netflixで見たどの映画より面白かった。みんな強くてカッコよくて、かわいくてキラキラして。私はそんなスターダムを世界一の団体にしたい」
復帰戦に合わせて作った新コスチュームはカラフルさが印象的だ。これまでコズエンに所属したメンバーたちのイメージカラーを使い「コズエンのこれまでの歴史とこれからの未来」をテーマにしたという。
「コズエンは変わり続けてきたユニット。2020年にできたばかりなのに、今はオリジナルメンバーが私しかいないくらい(笑)。新人の玖麗さやかが“見習い”で入ったり、これからも変化すると思います。でも、変わることでみなさんをガッカリさせることはないです。どう変化していくかを想像して、ワクワクしてください」
中野たむがいるスターダムの景色
たむは女子プロレス大賞に続きスターダムの年間表彰でもMVPを獲得。試合に穴をあけず頑張ってきた選手もいるだけに、当然ながら批判もある。
「そういう人たちにも“やっぱりプロレス界には中野たむがいないとね”って思わせたいですね」
それは復帰戦の段階で筆者が感じたことでもある。たむのいないスターダムがつまらなかったというわけではないのだが、それでもたむの復帰前/復帰後で団体の風景がまったく違うものに見えた。
「復帰できたのも賞をいただけたのもみんなのおかげ。痛みの中で愛を確かめる。それこそがプロレスなんだと思います」
これからユニットも、おそらく団体自体も変化していく。そして変化していくリングに中野たむがいることの心強さは、いくら強調しても強調しすぎることはない。