濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「もうプロレスやりたくない」負傷欠場中のSNS誹謗中傷…それでも人気女子レスラー・中野たむが復帰するまで「リングの上が、生きる場所」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/03/02 17:02
左膝内側側副靱帯損傷による長期欠場から復帰のリングに上がった中野たむ
「ブーイングがくるかも。卵投げつけられたらどうしよう。そんなことばかり考えてました」
それだけ、SNSでのネガティブな意見がダメージになっていた。実際には応援の声のほうが多かったし、誹謗中傷するような人間がわざわざチケットを買って会場に来るとも思えない。それでもやはり怖いのだ。客席からの声援で、ようやく心に刺さった棘が抜けた気がした。
負傷の脚を執拗に攻めた白川
復帰戦は2月4日のエディオンアリーナ大阪大会だった。
「6年前に長期欠場した時の復帰戦は悪夢みたいでした。何カ月も休むと、体が一般の人以下になっちゃうんです。だから今回は基礎から入念にトレーニングをしました。新人たちとグラウンドのスパーリングもして」
それでも、復帰のリングは甘くなかった。水森由菜と組み、対戦相手は白川未奈&月山和香。たむ率いるユニット「コズミック・エンジェルズ」(コズエン)を離脱した2人だ。白川にとって、たむは恩人であると同時に白いベルトを奪われた仇敵でもある。
「欠場前よりコンディションがいいつもりでいたのに、道場と試合のリングは別物でした。テンポだったり、ちょっとした間が気持ち悪いんですよ。以前なら考えるより先に体が動いてたのに、そうならない」
まして白川は執拗に自分を狙ってくる。それも負傷していた脚を。足4の字固めをはじめとした“脚攻め”は白川の十八番だ。
「最悪で最高の歓迎でしたね(苦笑)。あれが白川なりの“おかえり”だったのかなって。闘いながらペースが戻ってきたのは、ゆなもん(水森)のアシストがあってこそ。私となつぽいが欠場している中で、ゆなもんとサオリちゃんがコズエンを守り続けてくれました」
「また心配かけちゃうかもしれないけど…」
白川の脚攻めで「プロレスはこんなに痛くて苦しいんだ」と思い出した。しかしエルボー合戦ではプロレスの楽しさも蘇ってきた。
「エルボーを一発やられて、打ち返したらもの凄く強烈に決まったんですよ。お客さんも“おぉ!”ってなって。“これだ!”という感じでしたね。気持ちよくなって、自然に腕をグルグル回してエルボー打ってました。練習でもしたことないのに(笑)」
自分と、相手と、そしてファン。その3者の関係性の中にこそ“中野たむのプロレス”がある。月山にタイガー・スープレックスを決めて3カウントを奪うと、マイクを握ってファンにメッセージ。その内容も、たむらしいものだった。
「やっぱりこのリングの上が、たむの生きる場所。また心配かけちゃうかもしれないけど、信じてついてきてくれたら嬉しいです」