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“古巣のユニフォームはファンにプレゼント”で「手元にはもう何もない」…《カープ戦力外→新潟入団》薮田和樹がそれでも心に残す“男気”の背中
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2024/02/29 06:03
カープ戦力外→新潟入団の薮田和樹。2017年には最高勝率のタイトルも獲得した実力派は、新潟の地から12球団への復帰を目指す
「こんなに準備をして試合で持つのかなと思ったりもしました。でも、しっかり毎回、試合を作られていました。準備が人一倍すごかったですね」
投球術に年の功があるとしても、情熱にキャリアの差はない。薮田はプロの駆けだしの頃、見るべき背中を見て育った。
黒田は野球人生を変えてくれた人でもあった。16年、ある日の試合前練習でキャッチボール相手だった黒田から、こう声を掛けられたのだという。
「難しく考えないで、まずは内か外の2分割でストライクを取って、取れたら次は上と下も入れた4分割というふうに、自分で的を広げていけば楽なんじゃない?」
薮田の気負いを見抜いたのだろう。制球で勝負するタイプではないのに、ストライクゾーンの四隅を狙おうとしていた。小細工に走った剛腕はその多くが、本来の持ち味であるはずの球威まで殺してしまう。そんなことを危惧したのかもしれない。
薮田にとっては聞いたことがない考え方で、何よりも、思い切り腕を振るための後押しになった。16年はヒントを生かしてシーズン終盤に先発で連勝し、17年の大活躍に繋げた。
「理想形ですよね。投手として投げていて楽になる考え方です。球威がないとできないことですが、今も頭にはあります」
「このチームで一番手に君臨するくらいの成績を」
1月下旬。薮田は生活拠点である新潟県長岡市に引っ越した。妻子を東京に残し、まずは単身で新天地に飛び込んでいく。物静かな佇まいだが、胸の内には期するものがある。
「まず、このチームで一番手に君臨するくらいの成績を残さないといけない。力で押すのも大事ですが、32歳になる投手をNPBで獲るとなった時、安定した数字が必要です。調子の波を見せないことですね」
理想と現実の間を行き来しながら、ずっと、あるべき姿を追い求めてきた。うまくいかない日々も、いつか人生の滋味になる。薮田は白球とともに、野球人としての今を生き切ろうとしている。