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“古巣のユニフォームはファンにプレゼント”で「手元にはもう何もない」…《カープ戦力外→新潟入団》薮田和樹がそれでも心に残す“男気”の背中 

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酒井俊作

酒井俊作Shunsaku Sakai

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photograph byBUNGEISHUNJU

posted2024/02/29 06:03

“古巣のユニフォームはファンにプレゼント”で「手元にはもう何もない」…《カープ戦力外→新潟入団》薮田和樹がそれでも心に残す“男気”の背中<Number Web> photograph by BUNGEISHUNJU

カープ戦力外→新潟入団の薮田和樹。2017年には最高勝率のタイトルも獲得した実力派は、新潟の地から12球団への復帰を目指す

「今まで室内でいい感じだと思って投げていたのが、屋外でいい感じじゃなかったと分かった時、『どうやって投げようか』となりました。それ以上に強い球を投げようとして、体を思い切り振ったり、頭まで振ったり……。どんどん体の勘違いが出てきて、悪い方向に引っ張られてしまったんです」

 1年の始まりであるキャンプでの綻びはシーズンに影響を及ぼす。18年は制球こそ乱したが、まだスピードが出ていた。だが、19年は2月から違和感が顕著になり、持ち味である球威までそがれてしまった。 

 球を置きに行ってストライクを投げようとすると、球威不足で痛打される。力のある球を投げようとすると、コントロールが利かない。小器用に立ち回れるタイプではなく、制球と球威の二兎を追うことは簡単ではない。袋小路に入ってしまった。

「同じように投げていても、違うところにいく。『何かが違う、何かが違う』と考えても、2、3年経っても、原因が分かりませんでした」

広島時代のユニフォームはファンにプレゼント!

 投球での体の使い方のズレがスランプの原因だと突き止めたが結果を残せず、昨季は一軍で3試合の登板にとどまった。秋には来るべき時が来てしまった。昨年11月に12球団合同トライアウトに参加したが、声は掛からず、新潟行きを決めた。

 薮田は生まれ変わるために自分を捨てた。

「手元に残っているものは何もないんです」

 そう言って静かに笑う。昨年の秋、自宅で引っ越しの荷造りをしていると、着ることがなくなったカープのユニフォームが数えきれないほどあった。それを応援してくれたファンに感謝を込めて、プレゼントしていったのだという。前に一歩を踏み出すためのけじめだった。

「新潟でのプレーは、自分にとってリセットです。自分はまだできるという自信がある。安定した結果を残せれば、球速も上がってくると思っています。去年1年間はどこも体の不調はなかったですし、フラットな状態で見てくれる環境に身を置いて、結果が出なければ退くだけです」

【次ページ】 今でも記憶に残る、カープ時代の「ある背中」

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