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オリンピックPRESSBACK NUMBER
あの野獣がキューピッド?「松本薫さんが唐突に…」柔道・高市未来29歳が失意の東京&大ケガから復活「心の支えは“絶対に否定しない夫”」
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byMiki Fukano
posted2024/02/14 11:03
メダルを逃した東京五輪後は引退も考えたという高市未来(29歳)。夫の支えもあり、3度目のオリンピック代表の座を掴んだ
「彼の分までというのは少し違いますが、より甘えがなくなりました。彼は不完全燃焼で現役を退かなければならなかった。将来のことを考えると所属している会社を辞めて柔道を続ける決断を選択するのも難しかったと思います。そして、現役を続けている私にも多少気を使ってくれた部分もあったはず。申し訳なさもありましたし、より自分自身の人生を楽しんで欲しいとも考えていました。
そして、彼は次の道へと進んでくれた。その姿を傍で見てきたからこそ、“もうきついな”とか、“ダメかもしれない”とネガティブになりそうなときも、“トライできるチャンスがあるんだからやりきらないと!”とポジティブに感じられるようになったんです」
「涙も枯れて、目が死んでいた」(賢悟さん)
初めて五輪に出場した2016年リオ大会。高市はメダルを手にする仲間たちの傍で、「帰りは同じ飛行機に乗りたくなかった。一緒にいることが恥ずかしくて」と自身の不甲斐なさを嘆いていた。当時の妻の姿を賢悟さんはこう回想する。
「自分もリオに選ばれず悔しい思いをしましたが、それ以上の悔しさというか、自分じゃ理解できない感情なんだろうなって思いましたね。だから帰国した時には何も言えませんでした。慰めるのも違うし、かといってすぐに『頑張れ』とも言えないし……」
2021年東京五輪は2回戦で敗れ、女子日本勢ではただ一人メダルには届かなかった。
「同じ日に会社の同期の永瀬(貴規・男子81kg級)の試合があったので、すぐに会うことができなかったんです。会えたときは本当に目が死んでいましたし、涙もすっかり枯れていましたね。魂が抜かれたような感じで言葉をかけられる状態ではなかったです。
その後、現役を続けるのかどうなのかも、次のパリまであと3年しかなかったですし、代表争いがどれだけ過酷なものか、自分も分かっていたので。またつらい思いをするんじゃないかと思うと……。おそらく、順調に行くよりもつらいことの方が絶対に多いので。だから『頑張れ』とは言えなかった。リオから東京までの頑張りを、彼女の傍で見てきたからこそ、背中を押すのは難しかったですね」(賢悟さん)