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JリーグPRESSBACK NUMBER
「サッカーの採点は見ないが、食べログは見る」“元Jリーガーのラーメン屋”わずか半年で大幅リニューアルの理由「妻は今も大反対しているが…」
text by
栗田シメイShimei Kurita
photograph byL)J.LEAGUE R)Yuki Suenaga
posted2024/02/02 11:01
19年間にわたってJリーグで活躍した盛田剛平(左は2004年広島時代)。昨年3月にラーメン屋「盛田軒」をオープンした
もう一つ、飲食店経営の中で直面した課題が、スタッフへのマネジメントだった。もともと口数が多い方ではなく、選手時代もいわゆる“背中で語る”ようなタイプだった。しかし、“プレーヤー”から“監督”の立場になった今、何事も「おそらく伝わっているだろう」では許されないとも感じている。
「もともとベラベラ喋ってこと細かく説明する、というのが苦手な性格。俺について来い、と引っ張っていくタイプでもないので、スタッフへの接し方は悩みました。今思うのはラーメン屋の監督としては、些細なことでも出来るだけみんなと業務を共有して、全部説明しないとダメなんだろうな、ということです。普段から密にコミュニケーションをとる、そういうことを怠っていてはいいお店は出来ない。でも、実は家庭でもそういう振る舞いなので、それがなかなか難しかったりもする。まだまだ甘いな、と痛感してます」
キッチンカー、カップラーメン展開、海外進出…
盛田の話に耳を傾けると、飲食店経営の難しさ、特にラーメン店のそれを強く感じる場面が多かった。
それでも、その情熱や人柄が経験を凌駕し、顧客にも伝わっていることが、足繁く店に通う常連客の存在に繋がっている面もあるのだろう。盛田に、Jリーガーとしてのキャリアが今の職種にどう活きているか、と改めて問いかけた。
「Jリーガーを19年やってきて、一番セカンドキャリアに活きていると感じるのは、多少のことでは動じなくなったことです。物怖じしなくなった。逆境で、緊張するような場面でもそれは悪いことではないな、とポジティブに考えられるようにもなりました。今は確かに一番大変な時かもしれませんが、一生懸命やったことで、ある程度考え方にも余裕が出てきました。まだラーメンの世界で出し切っていませんし、やれることも全部やり切ってないので。サッカー選手の時と同じように泥臭く、出来ることをやっていきますよ」
スタジアムでのキッチンカーの出店、カップラーメンの展開、そして海外進出……47歳の今も、盛田の夢は果てしなく広がっている。
だからこそ、「盛田軒」を死にものぐるいで軌道にのせることに、腐心していくつもりだ。そして同時に、家族との向き合い方についてもこんなことを感じている。
「妻からは『バカじゃないの』と未だに大反対を受けますし、子供も受験を控えており、父としても頑張りどころ。子供との関係は良好ですが、Jリーガーである父親と、ラーメン屋の店主では子供からの見え方も違うんだな、とも感じています。それでもやはり、自分の好きなことを満足出来るまでやり通したいんですよ」
元Jリーガーが歩む「ラーメン道」。今はまだ険しい道中が続いている。それでも、「簡単にいかないからこそ面白いんですよ」と、屈託ない表情で打ち明ける。その先にある世界に思いを馳せる盛田の言葉は力強く、希望に満ちていた。
(全2回・完)