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イチローからの一言に、オリックス前オーナーは言葉を失った…“メジャー流出反対派”宮内義彦が明かす、チームの至宝のMLB挑戦を認めた理由
text by
宮内義彦Yoshihiko Miyauchi
photograph byAFP=JIJI PRESS
posted2024/02/10 06:00
2000年シーズン限りでシアトル・マリナーズに移籍したイチロー。日本人のメジャー流出を憂うオリックスの宮内義彦オーナー(当時)は、なぜ容認したのか
ただ、オリックスとしての契約はまだ1年残っている状態です。私たちとしては当然、スーパースターを手放したくはありません。契約を盾に、もう1年引き留めるべきかという相談でした。岡添さんに、球団とのコミュニケーションの中でイチロー選手は何と言っているのかを聞いてみました。
「もう日本球界での目標はなくなった」――
この一言はこたえました。もう何も返せません。7年連続で首位打者を獲得し、チームに貢献してくれた功労者です。その人に「目標がなくなった」と言われたら、こちらは返す言葉がない。
後味が悪いことになるのはどうしても避けたかった
球団に確認すると、MLB(メジャーリーグ)への移籍の場合、契約を持っている場合にもポスティングシステムという制度を使うことができると分かりました。
1年後にはFA権を取得できるので、ほぼ間違いなくそこで出ていってしまう。今いなくなるのと、無理強いして残ってもらい1年たっていなくなるのとどちらがいいのか。総合的に考えてどう決断すべきかの判断を、球団はオーナーに求めてきました。
ここで後味が悪いことになるのはどうしても避けたかった。ここまで来たら、いくらオーナーといえどもどうしようもない。ポスティングを使った移籍を容認することにしました。
当時はお金のことなど考えていなかった
イチロー選手の移籍で「たくさん儲けましたね」などと軽口を言われることもありましたが、当時はお金のことなど考えていませんでした。もちろん「タダで」とは思いませんでしたが、「これぐらいお金が入ってくるから」という議論は一切ありませんでした。イチロー選手はオリックスにとって、唯一無二の宝でした。
メジャー移籍後も、イチロー選手はシーズンオフで日本に帰ったときにはオリックスの練習場を使ってトレーニングをしていました。メジャーの最前線で活躍する選手を間近で見られるのは、オリックスの選手である後輩たちにもいい刺激になる。その関係性を維持できた理由の一つには、契約を盾に無理やり渡米を1年遅らせなかったこともあるでしょう。