濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「ファイターの顔じゃない」告げた妻…扇久保博正(36歳)がRIZIN完勝で証明した“世界レベル”「堀口(恭司)選手にいつか勝ちたい」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2024/01/10 11:00
元UFCランキング1位のドッドソンを判定3-0で下した扇久保博正
何年も前の話をいつまでも……と思われるかもしれない。しかし扇久保には、その時の悔しさが熱いまま残っているということだ。負の感情がエネルギーになることもある。
これからの目標はRIZINフライ級のタイトル。この日のメインイベントでは初代王座決定戦が行われ、堀口恭司が勝利している。やはり堀口は頭抜けた存在で、RIZINフライ級王座獲得は“打倒・堀口”とイコールだと言っていい。
「今回は3連敗してからの1勝なので。(タイトル挑戦は)まだなんとも言えないです。一つひとつ勝っていって、(堀口との)4回目ができたらいいなと」
扇久保の試合後インタビューはタイトルマッチより前。勝者予想を聞かれると、扇久保は「堀口選手だと思います」と答えた。そしてこう言うのだ。
「堀口選手には3回負けてますけど、いつか勝ちたいという思いがまだあります」
いつか堀口に勝つ…諦めない男の執念
本人にとっては当然のことかもしれない。しかしその言葉に驚きもあった。3回やって3回負けた相手。すでに決着はついていると誰もが思う。間違いなく堀口のほうが強いと。
2013年の初対決、修斗のタイトルマッチで扇久保は一本負け。チャンピオンは扇久保だったが、その時点で“破格の新鋭・堀口の相手”という雰囲気もあった。
だがそこから修斗で2階級制覇し、UFCへの登竜門であるTUFで決勝へ(準決勝で勝ったアレッシャンドリ・パントージャは現在UFC王者になっている)。RIZINではバンタム級ジャパンGP優勝。堀口に負け、2年間も勝ち星から遠ざかり、それでもドッドソンに勝って実力を証明した。
そして今なお、堀口に勝つことを諦めていない。すでに優劣がついていたとしても、ひっくり返せばいい。少なくともその可能性はあるのだと、ドッドソン戦でアピールできたのではないか。
時には過去を吹っ切ることも必要だ。しかし自分の中にある悔しさを薄れさせないのも、ファイターの才能なのかもしれない。UFCに対して「この野郎」と思い続け、いつか堀口恭司に勝つのだと信じ続ける。4月で37歳、キャリア36戦。家では愛する家族が待つ“おぎちゃん”の心の底には執念があり、それは誰にも消せない。