審判だけが知っているBACK NUMBER
中継車に「どきなさい!」箱根駅伝10区、早稲田vs東洋“21秒差の決戦”のウラにあった審判長の指示…敗れた東洋・酒井監督「御礼を述べたい」
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byJIJI PRESS
posted2024/01/08 06:00
猛追する東洋大(山本憲二)を退け、復路を制した早稲田大(10区・中島賢士)。21秒差は史上最僅差だった
それともう一つ、この大会で忘れられないのは10区で起きたシード権争いです。
残り8、9、10位までが来年のシード権を得るのに、4人のランナーがほぼ横一線でゴール近くまでなだれ込んできたのです。残りが200mほどとなった時に、何を思ったのか、國學院の選手(寺田夏生)だけが前を走る中継車についていってしまった。事前にあれほど周知させていたのに、彼は当日変更で気持ちが舞い上がっていたのか、監督から聞いていたことを忘れていたようです。
道を間違えたことに気がついて、慌てて引き返して前の3人を追います。順位が10位と11位では天と地ほどの差がありますから、ハラハラしながら見ていました。何とか抜き返してゴールしたので、あれにもホッとしましたね。
くしくもあの大会は、テレビ中継車が2度、レースの行方に大きな影響を与えかけた。どの大学が勝ったとか、区間賞を誰が取ったかよりも、そのことが強く印象に残ってます。
【初出:Sports Graphic Number1042号(2021年12月16日発売)】
吉儀 宏Hiroshi Yoshigi
1944年、島根県生まれ。順天堂大教授・スポーツ科学科長を務めた一方、日本陸連競技運営委員長や関東学生陸連副会長などを歴任。長年携わった箱根駅伝では81回大会から審判長。