審判だけが知っているBACK NUMBER
中継車に「どきなさい!」箱根駅伝10区、早稲田vs東洋“21秒差の決戦”のウラにあった審判長の指示…敗れた東洋・酒井監督「御礼を述べたい」
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byJIJI PRESS
posted2024/01/08 06:00
猛追する東洋大(山本憲二)を退け、復路を制した早稲田大(10区・中島賢士)。21秒差は史上最僅差だった
スタートからゴールまで2日間でどれくらいの学生補助員が出ているかご存じですか? 約30mごとに学生補助員が延べ3000人、そして100mごとに審判員がついて、人が飛び出さないか、目をこらして沿道を管理しているんです。
無線連絡が忙しくなるのは、トップの順位が入れ替わりそうな時。この大会では10区がまさにそうでした。
襷が渡った時点で40秒ほどの差だったのが、東洋の選手がトップ早稲田との差を詰めて、御成門辺りではもう20秒ほどの差になっていた。20秒というと距離にすると100mちょっとです。そこに東洋の酒井(俊幸)監督の乗る車から無線が入って、「中継車が間に入っているから前を追えない」と。監督が乗る車にも1名ずつ審判員が乗っているんですけど、そういう要望があったんです。
中継車に「どきなさい!」
確かに選手からすれば前の選手が見えるかどうかは心理的にすごく大きい。ですから私はすぐに本部車を日テレの中継車に横付けするように指示して、「どきなさい!」と言いました。「後ろのランナーに前を行くランナーの背中を見せてやれ」と。そういうことを言えるのは審判長だけですから、的確な指示を出さなくてはなりません。
あの時はフィニッシュ後に監督会議があって、酒井監督がそこで手を挙げてこんなことを言ってくれました。
「10区でうちのランナーが前が見えなくて困っていたところ、審判長が毅然とした態度で中継車をどかしてくれた。御礼を述べたい」と。それを聞いて自分の指示は間違ってなかったんだ、と嬉しくなりましたね。