トラックの上では“カッコいいアスリート”を体現していた彼女だが、その長い現役生活は慢性的なアキレス腱の痛みとともにあった。彼女にとってその苦しさは、“人生で感じたことのない痛み”ともいわれる出産以上のものだったのだろう。

　出産から2年近くが経つ今、彼女のInstagramは“息子一色”に染まっている。事あるタイミングで記念フォトを撮っている様子からも、夫婦の溺愛ぶりが感じられて微笑ましい。

「世の中のお母さんってすごいなって」

　とはいえ、現役時代のように育児も楽しいことばかりではないだろう。和田は、現役時代と比較しながら“育児のキツさ”についてこう語る。

「現役時代って自分のことに集中してきた人生で、自分さえ我慢すれば、頑張ればどうにかなることばかりだったんです。でも、育児って自分がどれだけ頑張ってもどうにもならないことばかりなので、それがめっちゃしんどいですね。世の中のお母さんってすごいなって思います（笑）」

夫・明憲さんと長男・勇翔くんとともに　©本人のインスタグラムより

　母となった彼女は相変わらずカッコよくて、現役時代とはまた違う柔らかさも感じさせる。

　その表情からは、現在の生活の充実ぶりが読み取れるが、トラックを離れたからこそ、そこでしか得られなかった「刺激」にも気づいたそうだ。

「子どもはめっちゃかわいいですし、時間でいったら今のほうが余裕がなくて、一日があっという間に過ぎちゃう。それもある意味、充実していることだし、幸せだなって思います。でも、やっぱり現役時代のほうが緊張感をもって生活していたのかな。あのときはそれが嫌で、試合前とか逃げ出したいと思っていましたけれど、それもすごく楽しかったんだなと思いますね」

©Shigeki Yamamoto

　現在は子育ての傍ら、各地で走り方教室を開くなど陸上との関わりは続いている。パワフルに駆け抜けてきた彼女なら、もう一度トラックに立つ可能性もあるのでは……とつい想像してしまう。

「今も身体を維持するための運動はしていますけれど、いずれ落ち着いたらまた走りたいなとは思っています。でも、そのときに自分が納得できる状態になっていないと、公の場で走るのは許せないかも……（笑）。それにむけてトレーニングをしないといけないと考えたら、現役時代の練習はもうできないと思うし、やるにしても楽しく走るくらいなのかな。でも、もしかしたらまた復帰しているかもしれませんね」

　競技を引退しても、結婚して母になっても、変わらず「自分らしく」。和田の”芯”は、いつまでもブレていない。