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「出産より現役時代のアキレス腱痛の方が…」1児の母になった元短距離日本代表・和田麻希(37歳)が明かす“コーチだった夫”との15年交際秘話
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph byL)本人のインスタグラムより、R)Shigeki Yamamoto
posted2024/01/18 11:05
2021年に競技を引退した和田さん。夫の明憲さんは龍谷大時代の先輩にあたり、交際は15年にもなったという
そうして現役引退を白紙に戻した和田は翌年、全日本実業団女子200mで自身初の優勝を飾る。その1カ月後には、100mで4年ぶりに11秒53(+0.8)の自己記録をマーク。30代以降は記録が停滞する選手も多いなか、彼女は32歳になる年にさらなる成長を遂げたのだ。
その2年後の2020年夏、ふたりは婚姻届を提出。15年間の交際を経て夫婦となった。入籍日はふたりの記念日でもある8月26日。公私ともにパートナーとして歩み続け、“事実婚”のような関係性でもあっただろう。そこで「結婚」という一つの節目を迎えたのはなぜだったのだろうか。
「コロナのせいで(結婚の)計画が狂うのは嫌で(笑)」
「元々、2020年の東京五輪で最後にしようかなと思っていたんです。学生時代から決めていたのですが、私の中では競技をしている間に結婚はしたくなくて。性格上、現役時代は陸上一本に集中して、第二の人生が始まる時に結婚したいなと考えていたんです。でも、コロナ禍で五輪が延びたじゃないですか。結婚も延期かな?と思ったのですが、コロナのせいでその計画が狂うのは嫌で(笑)。じゃあ籍だけは入れちゃおう!って」
結婚の翌年、和田は東京五輪出場という目標には届かず、その秋の全日本実業団でスパイクを脱いだ。元々、東京五輪のシーズンで引退と決めていたとはいえ、トラックを去ることに未練はなかったのだろうか。
「そうですね……。オリンピックに出られなかったのは残念でしたし、もし自分が女じゃなかったら、もうちょっと続けようかなって思ったかもしれません。でも、出産のことを考えると第二の人生に進むのは今かなって。夫には最初に伝えました。きっと年齢的なことも考えていただろうけれど、私の意見を常に尊重してくれて、『もうやめたら?』とか一切言わずに支えてくれたので。私が伝えるまでは多分、『来年も続けるだろうな』って考えていたと思います(笑)」
競技を離れることに複雑な気持ちもあったとはいえ、引退レースを終えた和田の表情には「キャリアをやり遂げた」という充実感が滲んでいた。
出産の適齢期も踏まえて引退を決めた彼女は、その約11カ月後に第一子の勇翔(おと)くんを出産。その出産エピソードも、“和田麻希”らしい。
「お産のときって普通は泣き叫ぶくらい痛いと聞いていたのですが、私はあんまりそれがなくて、全然動画を見せられるくらいで……(笑)。痛いは痛いんですけれど、そのレベルでいうと、現役の頃のアキレス腱のほうが痛かったなあという感じなんですよ。
痛さの種類が全然違うとは思うんですけれど、出産って単発だし、幸せなゴールが見えるじゃないですか。でも、アキレス腱の痛みは精神的にもキツかったし、治るというゴールが見えなかったのでしんどかったんですよね」