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「ギリギリまでブレーキを…」藤井聡太21歳と羽生善治53歳の天才性、「渡辺明先生の興味深い言葉」とは? 30歳人気棋士の“将棋ウラ話”
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byKeiji Ishikawa
posted2023/12/30 06:04
名人就位式での羽生善治会長と藤井聡太竜王・名人
「羽生先生が昔から表現されている〈運命は勇者に微笑む〉というフレーズに共通点があるかな、と思うんです。藤井さんは終盤で踏み込む局面や、一見して〈ココは危ないのでは?〉と感じるところで、ブレーキをギリギリまで踏まないで進んでいける。それは羽生先生の対局を見続けた身として、同じような感覚になることがあります」
――藤井八冠で言えば、第2回で話してくださった佐々木大地七段との棋聖戦第3局、〈8六玉〉がその象徴でしょうか。
「まさにそうですね。将棋は終盤、ギリギリ詰まなければ勝ち、と見た瞬間に踏み込めるものです。ただ100手で勝てるはずだった対局が、150手ほどでの決着になるのは決して珍しい話ではない。評価値的な観点を抜きにすると、その局面に対して候補手はだいたい3つほどある。ただ、そのうちで正解は1つか2つくらい。だから常に結構な確率で、少しずつもつれていくのが将棋の持つ競技性です。
一直線で勝ちに行くルートには危険が伴うから遠回りしがちであるとともに、手数が伸びることによって逆転が起きやすくなる。さらに大勝負になればなるほどその踏み込む決断自体が難しいというのが、自分自身もずっと課題としている点です」
勝つときはシンプルに、悪いときは複雑化させる
――勝敗を分ける終盤で踏み込む決断ができるか、そこは本当に難しいことなのだろうと思います。
「羽生先生も昔から〈踏み込むところが大事〉という考え方を持って盤面に向かっていました。それに加えて、状況がいい時には複雑化させずシンプルに勝つのがいい、逆に悪いなら複雑化させる――普遍的なことなんですけど、その理論をずっと語っています。
藤井さんが、いわゆる〈藤井曲線〉で勝利するときもシンプルに終局までたどり着いている印象ですよね。そう考えていくと羽生先生は先見の明があったからこそ、七冠独占を達成して永世七冠資格も手に入れています。一時代を築くどころか生ける伝説のような2人は、その辺りが共通しているかなと感じます」
佐藤康光前会長への感謝、学んだこととは
――なるほど。いわゆる〈羽生世代〉で言えば、2023年のABEMAトーナメントで高見さんは佐藤康光前会長の率いるチームに所属されました。ドラフト指名時には「前回なぜか誰も指名しなかったので、役員としてそれはまずいのではと。礼儀正しい好青年です」との康光九段からの言葉もありました。