監督の直感「今まで色々な選手を見てきましたが…」

　数々の名選手を見てきた中瀬監督の、直感に近いものだった。当初は芸大に進んでも競技から離れるつもりだった北川を熱心に誘い、「芸能活動や授業にもしっかり取り組みたい」との意思を尊重し、短時間での質の高い練習を考案してきた。

「今まで色々な選手を見てきましたが、彼女の場合は、たとえばベンチプレスで言えば50キロの重量を上げたら、すぐに50キロ分の筋力が付くタイプ。本来なら練習を重ねて力をつけていくものですが、彼女は人より距離を踏まなくても、一回の練習での吸収力が高いんです。

　これまでの経験からどれくらいの負荷をかければこのくらいのタイムが出るというノウハウはあるので、本人と『この試合でこのタイムで走りたい』という目標を確認しあって、それに合わせて短時間でピリッと刺激の入れられるメニューを組んできました」

今夏ユニバ・女子ハーフマラソンで金メダルに輝いた北川　©AFLO

監督キッパリ「教え子の中でもダントツの素質」

　大学1、2年時は伸び悩む女性選手も多いなか、北川は中瀬監督のメソッドにより、1年時から各種目で自己記録を更新。大学駅伝初レースとなった杜の都駅伝では2区区間3位と好走した。その区間配置にも、中瀬監督なりの思いがあった。

「彼女は1年生からうちのエースだったので、本来ならエース区間の5区（9.2km）を走るのが妥当でした。ただ、彼女は元々長い距離に抵抗がありましたし、1年生からエース区間にはめてしまうと、走ることの楽しさが無くなってしまう。ですので、1年は2区（3.9km）、2年は1区（6.6km）、3年は3区（6.9km）と徐々に距離を延ばしていったんです。今年は満を持して5区を走ってもらいました。この逸材を何とか続けさせたいと思っていたので、とにかく楽しんで走れることを最優先にしてきましたね」

大学では舞台芸術などについて学びながら競技を続けている　©Takuya Sugiyama

　北川について語るとき、中瀬監督は楽しそうに声を弾ませる。「彼女はね、絶対に面白くなりますよ」。興奮気味に語るその目は、指導者として光る才能に触れているときの喜びに満ちている。

　日本を代表するマラソンランナーを育てた指揮官をして「教え子の中でもダントツの素質」と言わしめる北川。中瀬監督は彼女のどんな面に才覚を見出しているのだろうか。

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