「カーブ、いいですか！」

　やっぱり、真っ向唐竹割りだ。ストレートより、もっと腕が振れる。

　まっすぐに来て、ベースの手前でタテに割れた。横にブレない＜ドロップ＞だ。ドロンとしたカーブじゃない。地面に突き刺さるような強烈カーブ。

　間違いなく140キロ台後半が続いて、中には＜150＞に届いていたのもいくつかはあったはず。

「今が夏だったら、全国優勝だったかもな」

　私の後ろで見ていた野球部長や監督さんたち。こんなに速い高橋純平、久しぶりに見たと、口をそろえて驚いていた。

「今が夏だったら、全国優勝だったかもな」

「ストレートの握りなんかも、ボクの場合は、縫い目の真ん中に指先をかけるんですよ」

　こういう話になった時、高橋純平の目が一気に鋭さを増した。

「ボールの縫い目の一つ一つって、よく見ると右と左の両方からきて、真ん中でひとつになってるじゃないですか。その真ん中の所に指をかけると、リリースの瞬間にその向こう側の縫い目に指先がすごくかかって、強く弾けるんです。逆に、指先で縫い目を隠すようにして握ると、リリースの時、最後に指先がかかるのが、ツルツルの面になるのでうまく弾けなくて」

2019年には中継ぎの一角として17ホ－ルドをマークした　©JIJI PRESS

　自分からどんどん話を展開させていく。

「勝負球でストレート投げる時は、そうやって握りを作って投げますけど、カウントとる時なんかは、グラブの中でボールを握った時のそのままの握りで投げることもしょっちゅうですし」

　つまり、たまたまグラブの中で握った「偶然」の握りのままで投げるという。ピッチャーとしての＜遊戯＞。自分にも想定できない自然なボールの動きを楽しむ、究極のピッチャーとしての遊び。

「フォーシームとかツーシームとか、握りの常識みたいなのがありますけど、いろんな握りでストレートを投げられて、狙ったポイントに制御さえできれば、ストレートの種類が無限大に増えるわけじゃないですか。スピードとボールの動きに無数のバリエーションを与えられる。ボク、チェンジアップの握りでも＜ストレート＞投げられますから」

　あの頃はなかった「ツーシーム」にねじ曲げられた左手の親指をさすりながら、帰りの新幹線の中で、つらつら考えていたことを覚えている。

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