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「後悔はあります」元五輪スイマー伊藤華英が語る“生理と女子アスリート”の課題「生理で休んだら負けちゃう…ではなく」「我慢一択ではない」
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byKiichi Matsumoto
posted2024/01/12 17:01
現在注力する「スポーツを止めるな『1252プロジェクト』」で、HEROs AWARD 2023を受賞した伊藤華英さん
「生理が辛いと口にすると、弱音を吐いていると言われたり、メンタルが弱いと捉えられたりすると思い込み、『練習では強いけど本番になると弱みが出ちゃう』と自分で勝手に思っていたんです。今では、もっとコーチと話をして原因を詰めたほうが良かったと思います。自分の人生ですから、もっと自分で自分を考えるべきだった。もっと生理という柱を持ってコンディションを気にするべきだった。知識さえあれば生理を考慮することもできたのに、という後悔があります」
例えば、ピルには人によって合う合わないがあるという知識を事前に持っていれば、五輪の1年前に一度試してみることも可能だっただろう。やってみて自分には向いていないと分かれば本番では飲まないという選択もできたのだ。
我慢ではなく、知識を
「今は若い方、これからのアスリートたちの役に立ちたいという思いがあって、学生さんたちには絶対に月経周期(の記録)をつけてね、と言っています。中には生理を意識したくないから、つけたくないという人もいますが、我慢一択ではなく、選択肢を持てるように知識を身につけることが肝心。生理のことでストレスや不安な気持ちが定期的に訪れるのであれば対処することが重要です。せめてかかりつけ医は持っていてもらいたいですね」
伊藤さんは指導者にもきっちりと生理の知識を持っていて欲しいと考えている。
「生理がどれだけコンディションに影響することなのか、生理とはそもそも何なのか。生理は妊娠や出産に繋がっていく大切なものですし、みんなにそういうことを知ってもらうことが課題の解決に繋がっていくと思います。コーチが知識を持っていることを選手が知っていることで課題の解決に繋がりやすくもなります」
生理には個人差があることを知っているのも重要だ。
「生理前に調子が良い人もいるし、始まった後に調子が良い人もいます。母と子で異なることも多いので、お母さんが『自分はこうだったから』という一言で片付けてはいけません。競技による特性もありますから、自分で正しい知識を持ち、自分の中で選択をしながら、周りもいろいろな選択肢を与えられる状況になることが望まれます」
大事なのは女子アスリートの当事者が知識を持っていることと、いろいろな選択肢があることを教えてくれる大人が身近にいること。伊藤さんは、変えられる部分があるからこそ、そこにフォーカスしていくだけと言う。