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「後悔はあります」元五輪スイマー伊藤華英が語る“生理と女子アスリート”の課題「生理で休んだら負けちゃう…ではなく」「我慢一択ではない」 

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矢内由美子

矢内由美子Yumiko Yanai

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2024/01/12 17:01

「後悔はあります」元五輪スイマー伊藤華英が語る“生理と女子アスリート”の課題「生理で休んだら負けちゃう…ではなく」「我慢一択ではない」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

現在注力する「スポーツを止めるな『1252プロジェクト』」で、HEROs AWARD 2023を受賞した伊藤華英さん

「生理は1カ月に1回だし、しょうがないかなと思っていましたし、逆に、生理が重いことはコンディションのコントロール不足なんじゃないかとも思っていました」

 自分以外の人にどういう症状があるのかも分からなかった。学校の保健体育で教わるのは生理のメカニズム。生理中の症状や女性特有のヘルスケアについてなど、リアルな対処法を学ぶ場がないのだ。

 08年4月の競泳日本選手権女子100m背泳ぎで日本新記録(当時)を樹立して優勝し、北京五輪でのメダルが期待された伊藤さんだが、生理前になると体調がきつくなるという悩みはずっと抱えたままだった。そこで、五輪本番に向けての調整法をコーチ、ドクターと話し合って決めたのが、大会中に生理が当たらないようにするため、中容量ピルで生理周期をずらす方法だった。ところが、伊藤さんにこの中容量ピルの副作用が出てしまう。

「ピルを飲んだ後はお腹が膨らんだ感じで、まるでずっと生理前のようなしんどさが続いていました」

北京五輪での二重苦

「体調も苦しいしイライラもする。ニキビもできる。練習のタイムも0秒2~0秒3くらい遅い。全盛期に感じていた“突き抜けるような水の感覚”を持てないまま北京五輪を迎え、モワッと水をつかんでいる感じで、きちっと水を掻くことができませんでした」

 北京五輪は浮力のある素材で足首まで覆う“高速水着”が世界を席巻していた時期でもあり、伊藤さんはこの水着も合わず二重の苦しみの中で100m背泳ぎ8位、200m背泳ぎ12位と苦杯をなめた。

 その後、伊藤さんはピルを飲むのをやめることにした。27歳で迎えたロンドン五輪は、膝のケガなどの影響で自由形に転向しての出場となり、またしてもメダル獲得とはならなかったが、どこか納得できる気持ちだったという。

「次のオリンピックはピルを飲まないと決めてからは、生理が来たらこういう風にやっていこうというように、心構えが変わっていました。もちろんピルが合う方もいます。ピルは決して悪いものではありません。私の場合は、自分の選択に責任を持ったからだと思います。もっと何かできたんじゃないかとモヤモヤしながら本番を迎えるのと、自分はこれでいくんだという覚悟を決めて本番を迎えるのとでは全然違うと思うんです」

 現役当時の心境を踏まえ、伊藤さんは今このように考えている。

【次ページ】 我慢ではなく、知識を

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