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大谷翔平“ブルージェイズ急浮上”の報道はウソだった? 「“幻の記事”は怒りが冷めたら…」カナダ人記者の運命を変えた“オオタニ争奪戦”その後
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byGetty Images
posted2023/12/15 06:00
ブルージェイズの主砲ゲレーロ・ジュニア(左)と塁上で言葉をかわす大谷翔平。2024年4月下旬、ドジャースの一員としてトロントの地を訪れる予定だ
8日の金曜日は私にとっても忘れられない一日になりました。ウィンターミーティングが開催されたナッシュビルからトロントに戻り、その日は実は私のガールフレンドの誕生日パーティが行われる日でした。スタジアムの近くのレストランにだいたい10人くらいの友人が集まり、彼女のバースデイを祝ったんです。
これが私たちの仕事の難しい部分ですが、大谷の去就決着というビッグニュースが間近に近づき、パーティに行くべきかどうか、頭を悩ませました。まさにその日にあの(噂の)プライベートジェットがトロントに向かって飛んだため、私はパーティ欠席を覚悟せねばならなかったんです。埋め合わせとして、「食事と飲み物は私がすべて払うから」と言ってガールフレンドにクレジットカードを渡しました。
彼女たちがその店でも最高級のカクテルを注文して大散財するんじゃないかと内心はドキドキしてました(笑)。ただ、問題となったプライベートジェットに乗っていたのは、大谷ではなく無関係のカナダ人の実業家であることが判明。夜8〜9時頃にはもう大谷がその日に契約することはないことが明白になり、そこで慌ててパーティ会場に駆けつけたんです。彼女たちが法外なお金の使い方をしていないことを確認し、私は破産せずに済んだというわけです(笑)。
そのようにバタバタしたわけですが、私のガールフレンドは私たちの仕事がどういうものかをわかってくれています。いつも完璧なタイミングで物事が起こるわけではないことも理解しています。熱狂的なベースボールファンというわけではないですが、そんな彼女も毎朝、“彼は今日契約するの? それともまだ携帯とのにらめっこが続くの?”と私に言ってくるくらいになっていました。大谷がドジャースとの契約を発表し、通常の生活が戻ってきたことを彼女もハッピーに感じているはずです。
“幻の記事”は「消去しないでしょうね」
ともあれ、大谷がブルージェイズ入りした際の記事はすでに準備してありました。発表直後に発信しなければいけなかったため、執筆は終えてあったんです。
メディアの仕事に馴染みがない人たちには説明しなければいけないですが、あの時点でもう大谷がブルージェイズ入りしても、入団しなくても、どちらにしてもニュースになります。だからその両方のシナリオの用意をしておいたということです。
今回に限らず、普段のゲーム中も7、8回にはもう試合の結果を予測して記事を書き始めます。“ブルージェイズ史上初の完全試合達成”とか、陽の目を見なかった記事はたくさんあります。今も私のラップトップには、“大谷がブルージェイズ入り”というビッグストーリーが眠っていますよ。この記事は消去しないでしょうね。プリントアウトしておいて、今から約15〜20年後、もうトロントの人々の怒りが冷めた頃、大谷が殿堂入りを果たす週にでも“幻の記事”として発表したら喜んでもらえるかもしれません(笑)。