敗因は即詰み逃し（攻め方から指して、王手の連続で詰みの状態までもっていけるのを逃した時）。最後の選択、二つの選択肢で逆を選び、結局は間違えて負けたのですが、この対局、元々ずっと藤井が大苦戦だったのです。ずっと不利な局面が続き、一方的に藤井が負けても仕方のない将棋でした。

　ところが、一度だけ渡辺さんに大きなミスが出た。そこで、逆転しかかったのです。それを、その次の一手で藤井にもミスが出て結果的に何事もなく元々優勢だった渡辺さんが勝った。実はそこで私は少しほっとしたところもありました。

　勝負において、相手のミスを咎めての逆転勝ちはよくあることです。「今回はツイていたな」と、してやったりという顔をする人もいるでしょう。

ただ、藤井聡太はそれではいけない

　もちろんそれも勝負の一面ですから、決して悪いことではありません。ただ、藤井聡太はそれではいけない。あの一戦が五番勝負を決定づけるものになってしまっては、運に恵まれてタイトルを獲ったことになってしまいます。

　藤井の将棋は、運で勝つものではない。彼はそういう棋士人生を歩んではいません。後々の藤井のためにも、負けてよかったのです。あそこで勝ってしまっていたら、感想戦でも藤井はずっと反省の言葉しか述べないであろうことも見えていました。

厳しい内容となった一局に、本人も悔しそうな様子を見せる（代表撮影）　©JIJI PRESS

　第三局の敗戦で五番勝負は藤井の二勝一敗。つまりまだ一番勝ち越していました。

　きっと将棋の神様が「もう一回、初手からやり直しなさい」と藤井に言っていた。そんな気すらするのです。

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