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出場機会がなく涙する日も…川崎F一筋で139得点、小林悠“36歳の渇望”「ゴールが欲しい時は俺を使って」「残り10分でも5分でも関係ない」
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byShigeki Yamamoto
posted2023/12/08 11:01
川崎フロンターレ・小林悠のロングインタビュー。36歳となった今も「試合に出れば絶対に点が取れるっていう自信がある」と断言する
春先、試合でメンバー外となった選手たちだけで練習したときのことだ。多くは若手だったが、そこには小林の姿もあった。
「メンバーに入っていない時の練習でも1人だけ異質なんですよ。僕はシュートを受ける立場だからわかるし、あの姿勢は若い選手にも見習ってほしいなと思います」
クラブを長く支えているGK安藤駿介の証言だ。
「数少ないチャンスをいかに決めるのか。小林選手はずっとその意識でやっている。シュート練習にゲーム性を持たせて、いたずらに本数を増やすのではなく『何本決めたらすぐ上がる』と言って、GKを煽ってくる(笑)。こっちも『夕方まで帰れないんじゃないの?』って言いますけどね。そしてパッとやってパッと終わる」
プロ同士の試合ではシュート練習のように、フリーで打つチャンスが来ることはほとんどない。それをわかった上で、練習からどれだけ本気で取り組んでいるのか。そこが本番でもチャンスを逃さないあの鋭い嗅覚を生んでいるのではないか、と安藤は話していた。
練習のための練習ではなく、常に本番をイメージすること。
言われてみれば当たり前のことだが、それを習慣化していることが長くゴールを奪い続けてきた秘訣でもあるのだろう。小林自身、取り組みに甘さの感じられる若手には、つい苦言を呈すこともあるという。
「シュートだけじゃなくて、ボール回しとかでもそうですね。若い選手には『なんとなくやるなよ』って言うんですよ。一個一個の練習をなんとなくやってる選手って、大事なところでなんとなくやってしまう。そこは失敗を繰り返して変わっていくものなんですけど、変わるなら早いに越したことないじゃないですか。自分も若い時は『なんとなく』が多かったし、それを経験しているからこそ、言ってあげたくなっちゃう。自分はもう先が長くないなって思うようになってから、より伝えるようになりましたね」
なお、この話には後日談がある。試合に帯同できなかった小林は、その4日後の京都サンガF.C.戦でメンバー入りし、今季初ゴールとなる劇的な決勝弾を決めている。日頃の取り組みが“必然の結果”をもたらすことを若手たちに示したと言える。
自らに残されている時間が長くないことは、少なからず意識している。それでも第一線に踏みとどまり、戦い続けているのは視線の先にゴールがあるからだ。
小林悠、36歳。
ゴールへの渇望は、まったく衰えていない。
<続く>