起死回生の同点弾で呼び込んだ“等々力劇場”

　小林が凄いのは、そこから本当にゴールネットを揺らしてしまうところだ。84分、山村和也からのロングフィードを絶妙なトラップから流し込み、起死回生の同点弾を決めてみせた。

　5月の柏レイソル戦以来となる得点だった。小林のゴールは、等々力競技場に駆けつけたサポーターの熱量をグッと上げた。試合後、ピッチにいた選手たちが「悠さんのあのゴールで雰囲気が変わって勝てると思った」と一様に証言したほどの変化だった。アディショナルタイムには遠野が豪快な逆転弾を決め、さらに終了直前には宮代もダメ押し弾を記録。終わってみれば4対2の大逆転勝ちだ。小林の得点が呼び込んだ“等々力劇場”だった。

　小林悠とは、こんなドラマを起こしてしまえるストライカーなのである。ただ気になるのは、シミッチだけを呼んだはずの鬼木監督がなぜ小林も同時に投入したのか、だ。

　後日、指揮官にこの采配の真相を聞いてみた。

　当初は、最後に残っている交代枠で小林を投入して勝負をかけるつもりだったらしい。だが一度に流れを変える必要があると考え、咄嗟に2人を同時に投入する判断に変えたのだという。その決断の際、視界に小林が入っていた影響があったかどうかは覚えていないそうだ。「もしかしたら、そのアピールでタイミングが早くなったのかもしれない。だとしたら、みんなこれから自分の前に来ますよね」と鬼木監督は笑っていた。

川崎フロンターレの鬼木達監督　©︎Shigeki Yamamoto

　いくつかの偶然が重なったことで引き寄せたチャンスだと言えるし、わずかな可能性に賭けた小林の執念が実ったとも言える。それほどまでに試合に出てゴールを決めたかったし、チームを勝たせたい思いが強かったのだ。「一念岩をも通す」というよりも、「一念鬼をも動かした」と形容すべきエピソードかもしれない。

36歳になっても「試合に出れば絶対に点が取れる」

　今年、36歳を迎えた。

　年齢という数字とリンクしてパフォーマンスを語られることも多くなった。肉体的な変化は当然あるだろう。だがゴールへの嗅覚と肉体は年々研ぎ澄まされている実感がある。

「試合に出られない時期はやっぱり歳をとってきたのかなって思わされるんですけど、シーズンの終盤に90分出た試合でも『まだ全然動けるじゃん』って感じるんですよ。それに、試合に出れば絶対に点が取れるっていう自信が今でもある。なんて言えばいいのかな……。うん、自分はまだまだやれるよって思っちゃいますね」

　シーズン序盤、小林の興味深い話に触れる機会があった。

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