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カタールの悪夢を振り払い、佐々木歩夢がMoto3最終戦で正々堂々の今季初勝利! 加藤大治郎の日章旗とウイニングランで来季はMoto2へ
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2023/11/29 11:03
ウイニングランの途中、両親と抱き合って喜ぶ佐々木歩夢。渡された日章旗は22年前に加藤大治郎が使ったもの
歩夢と抱き合って勝利を喜んだ未来さんも、涙でぐしゃぐしゃになったと振り返る。
「レース中は本当に言葉も出ないくらい緊張した。とにかく優勝して欲しいと思っていたから。カタールGPは日本でテレビで見ていたけど、本当に悔しかった。なんで、みんなで歩夢をいじめるんだって思ったし、涙が出た。でも今日の涙はうれし涙。本当に良かった。スペインに来て良かった。歩夢の優勝が見られて良かった」
日章旗を渡した2コーナーでは、歩夢はもちろん、両親も涙にくれた。
カタールGPでは、ライバル陣営のあまりにも愚劣な妨害走行に涙も出なかった歩夢だが、この日は「これまで悔しくて泣いたことはたくさんあるけど、うれしくて泣くのは初めて」と泣きに泣いた。
大治郎の日章旗
ウイニングランで歩夢が掲げた日章旗は、歩夢たちの世代にとって永遠のヒーローである故加藤大治郎さんが2001年にチャンピオンになったときに使ったものだ。長くしまい込まれていた旗を発見したのはデルタ・エンタープライズの村上裕二さん。デルタ・エンタープライズは、大ちゃんの遺志を継いで大ちゃんの両親が制作したポケバイ「74Daijiro」を販売する会社である。
現在、グランプリで活躍する選手たちは「74Daijiro」で育った選手ばかりで、歩夢もそのひとり。大ちゃんを凌ぐ才能といわれた歩夢は「74Daijiro」シリーズのチャンピオンになって世界に出た。村上さんが日章旗に託した思いを語る。
「今年の日本GPで2位になったときに歩夢がこの旗を持って走ってくれて、大ちゃんの家族もよろこんでくれた。もし歩夢がチャンピオンになったら、あるいは優勝したら、また、この日章旗を掲げてもらえたらうれしい」
旗を預かっていたぼくは、マレーシア、カタール、バレンシアと続く終盤の3連戦を様々な人の思いを抱えて転戦した。
そんなこともあって、歩夢のウイニングランを見たら涙がとまらなかった。1週間前にチャンピオン獲得の夢が潰えたときの虚しさ、カタールの夜空を見上げて「なんてことをしてくれたんだ」とレオパード・レーシングに対して怒りが湧いた日のことを思い出す。この日の歩夢の優勝は、そんな鬱屈を吹き飛ばす最高にかっこいい勝利だった。