実は、中村にとって教え子の日本代表選出はこれが初めてではない。ロシアW杯で守備の中枢を担った昌子源（鹿島）もその一人。しかし、「今回はわけが違いますよ」と中村は言う。

「昌子は卒業してから鹿島で着実に経験を積み重ねていった。タイトル獲得にも貢献して地位を高めていましたが、海舟の場合はずっとJ2が主戦場でした。もちろん、成長しているなと感じていましたし、いつかはA代表に入って欲しいなとは思っていましたが、まさかこの若さで選ばれるなんて……まだまだ先の話だと思っていましたよ」

　しかも日本代表のボランチには最高峰のプレミアリーグでプレーするリバプールの遠藤航、ポルトガルの名門クラブであるスポルティングでプレーする守田英正、カタールW杯での活躍も記憶に新しい田中碧（デュッセルドルフ）ら実力者が揃う。最近では鎌田大地もこのポジションに入るなど、錚々たるメンバーがポジションを争う激戦区だ。新しく招集される選手たちがなかなか定着できないことも無理はない。

　しかし、対戦相手が格下ではあったものの、短い時間の中で自身の特徴を発揮し、違いを見せつけた佐野は評価に値する。本人は「あの場に立っていることが凄く不思議な感覚でした」と振り返ったが、豪華絢爛の中に放り込まれた22歳とは思えないほど安定していた。

日本代表の練習で久保建英とマッチアップ　©︎JFA/AFLO

「高校時代はそこまで凄いとは思わなかった」

　そんな教え子の逞しい姿に中村は感慨深い想いに浸った。

「高校時代はそこまで凄いと思わなかったのですが、卒業してからとんでもない選手だったんだなと思うようになりました。まさに『いなくなってから分かる』という感じでした」

　岡山県津山市出身で、地元の強豪・FCヴィパルテで足元の技術を磨いた佐野だったが、サンフレッチェ広島ユースのセレクションは不合格に。高校サッカーに活躍の場を模索する中で米子北の練習に参加した。当時のセレクションを見ていた総監督の城市徳之に、「線は細いが、基礎技術がしっかりしている」と評価されて入学に至った。中村もすぐに佐野の“才能の片鱗”を感じとった。

青森山田MF高橋壱晟（当時高3、現ジェフ千葉）とマッチアップする高1の佐野海舟　©︎Takahito Ando

「1年生なのにボールを奪い取れるし、何故か彼のところにボールが転がっていくんです。『これは一度使ってみよう』と起用したら、すぐにチームの攻守のバランスが整ったので、そこからレギュラーに定着させました」

【次ページ】　屈辱の「1勝17敗」でも下を向かない