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妻はブラジル柔道代表監督、4歳下の夫は育児・家事と並行して…「全員、懸命に任務を遂行しました」5人家族のドラマと“斬新な幸せ”の日々 

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沢田啓明

沢田啓明Hiroaki Sawada

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photograph byJIJI PRESS/Yuko Fujii

posted2023/11/25 17:01

妻はブラジル柔道代表監督、4歳下の夫は育児・家事と並行して…「全員、懸命に任務を遂行しました」5人家族のドラマと“斬新な幸せ”の日々<Number Web> photograph by JIJI PRESS/Yuko Fujii

2013年、ブラジル男女代表技術コーチ時代の藤井裕子さんと、一家の最新写真

「若い女性が世界のメジャースポーツの強豪国の男子代表の監督を務めるのは、前例がない。ジェンダーの壁を崩した」と世界柔道連盟の公式サイトで紹介され、欧米有力メディアでも大きく取り上げられた。2020年東京五輪(実施されたのは2021年7~8月)に監督として参加し、男子66kg級のダニエル・カルグニンが銅メダルを獲得。2人で号泣しながら抱き合った。大会後、男子代表のコーディネーターに就任した。

4歳下の夫は子育てと家事の大部分を担いつつ…

 今年5月、ブラジル柔道連盟を退職し、国内の強豪柔道クラブ「インスチトゥート・レアソン」(以下、レアソン)のコーチに就任。広大な国土(日本の約22.5倍)の各地を回って選手を指導し、指導者向けの講習会を開いてきた。

 ブラジルの柔道関係者は、「技術面の指導が優れているのはもちろんだが、常に選手のことを親身になって考える人間性が素晴らしい」と口を揃える。

 さらに、国内トップのプロコーチでありながら、ボランティアとして貧困家庭の子供たちに柔道を教える。ある福祉施設の責任者は「代表チームの監督、コーチとして五輪に何度も参加したほどの人が、うちの子供たちに柔道を教えてくださるなんて――。私たちにとって、ユーコは神様からの贈り物、天からの授かりものです」と感極まった表情を浮かべた。

 そんな裕子さんを全面的に支えるのが、4歳年下の夫・陽樹さんだ。日本での教育者としてのキャリアを中断して共にブラジルへ渡り、ブラジルで生まれた3人の子育てと家事の大部分を担う。その一方で、自身もアマチュアチームでフットボール選手として活躍する――。

 11月22日は「いい夫婦の日」だったが、おふたりはその斬新かつ先進的なサンプルと言っていいのではないか。

 9歳の長男・清竹君は、フットボールのプロ選手を目指してフットサルクラブで技術を磨き、かつてフラメンゴ、現在はボタフォゴというリオの名門クラブのアカデミーに所属する。6歳の長女・麻椰ちゃんは、体操、ピアノ、水泳、柔道などを習う。性格が底抜けに明るく「私たちが住んでいるマンションの中では、家族の中でこの子が一番有名」(陽樹さん)だそうだ。さらに、昨年6月、次女・巴菜(はな)ちゃんが生まれた。

責任が重いけれど、やりがいがある仕事を

 この藤井一家を、リオでじっくり取材させていただいた。

 まずは、裕子さんの柔道の指導(レアソンのトップ選手への指導、ラファエラ・シウバへの個人レッスン、NGO「カーサ・アレグリア」での子供たちへの指導)を同行取材させていただいてから、話を聞いた。

――現役時代に自身が果たせなかった五輪参加の夢を、指導者として3大会連続で叶え、確かな結果を残しました。海外での生活が16年半、柔道のプロコーチとなってから13年半、ブラジルで指導を始めてからだけでも10年半を超えました。

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