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妻はブラジル柔道代表監督、4歳下の夫は育児・家事と並行して…「全員、懸命に任務を遂行しました」5人家族のドラマと“斬新な幸せ”の日々
posted2023/11/25 17:01
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph by
JIJI PRESS/Yuko Fujii
日本人のスポーツ指導者としてはかなり例外的な、波乱万丈の柔道人生、と評していいだろう。
失礼ながら――現役時代、日本でのエリート街道を突っ走ってきたわけではない。しかし41歳となった今、海外で柔道のプロコーチとして高い評価を手にしている。なおかつ、夫の全面的な協力を得て、幸福な五人一家を築いている。
英国への語学留学で大きく変わった運命
藤井裕子さんは愛知県大府市出身。1992年バルセロナ五輪男子78kg級金メダルの吉田秀彦、2004年アテネ五輪と2008年北京五輪の女子63kg級で2連覇を遂げた谷本歩実(裕子さんと同世代)らを輩出した大石道場で5歳から修業を積み、中学、高校では全国大会で上位に入った。ところが、その後、伸び悩む。裕子さんは当時をこう回想する。
「猛練習をして技術を高めるのは大好きで“練習の虫”と言われた。でも、やがて同年代トップの選手に勝てなくなった。勝負に対する執念が足りなかったのだと思います。彼女たちが世界の檜舞台で活躍するのを見て、とても悔しかった」
選手生活を続けながら広島大学教育学部を卒業し、「勉強のためというより柔道を極めるため」同大大学院へ進んだが、やはり思わしい結果を出すことができなかった。大学院修了後、24歳にして現役を引退。2007年、ロンドン西方にあるバース大学へ語学留学した。
ここから、運命が変わっていく。
「大学柔道部で指導を始めた際、素晴らしい指導者に出会った。彼らが基本を大切にして美しい柔道を教えるのを見て、自分が幼い頃から日本で叩き込まれてきた柔道を自信を持って教えていいのだと思いました」
東京五輪のメダル獲得で選手とともに号泣
2010年に英国女子代表の技術コーチに抜擢され、2012年のロンドン五輪で英国12年ぶりのメダル獲得に貢献した。基本に忠実で、なおかつ選手の気持ちに寄り添う指導ぶりがブラジルの柔道関係者の目に留まり、2013年5月、ブラジル男女代表技術コーチに就任する。2016年リオ五輪で、愛弟子のラファエラ・シウバが女子57kg級で金メダルを獲得する快挙を手助けした。
その後もブラジルに留まり、2018年6月、35歳でブラジル男子代表の監督に就任する。