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「19歳の石川祐希や柳田将洋を見た時に…」中垣内祐一はなぜ“頑固なフレンチシェフ”に日本を託したのか? 男子バレー“ブラン監督”誕生秘話 

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田中夕子

田中夕子Yuko Tanaka

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posted2023/11/14 11:00

「19歳の石川祐希や柳田将洋を見た時に…」中垣内祐一はなぜ“頑固なフレンチシェフ”に日本を託したのか? 男子バレー“ブラン監督”誕生秘話<Number Web> photograph by NumberWeb

現在は故郷で家業を継ぎながら、福井工業大学教授の肩書きも持つ中垣内祐一(56歳)。ブランに託した代表チームの躍進を嬉しそうに振り返った

 海外から指導者を招聘する――中垣内がそう心に決めたのは、2015年ワールドカップで石川祐希(当時19歳)、柳田将洋(当時23歳)といったハイセットをきちんと叩ける高い攻撃力を持つ選手を目にしたことだ。可能性を秘める選手たちを伸ばすためには外国籍の指導者から適切な指導を受けるべきだと考えた中垣内は、反発する周囲を納得させるために自ら監督に就任して優秀な人材をコーチに招聘する準備を整えた。その根本をたどれば、JOCスポーツ指導者海外研修員(2009〜11年)として渡米した経験が大きかったと振り返る。

「アメリカに行って僕は日本人だ、ということがよくわかったんです。アメリカでやっているのはアメリカ人のための練習であり、ブラジルはブラジル人のための練習。根本が違う。アメリカと同じ練習をしても物足りないと感じるだろうし、ブラジルの練習をそのまますれば壊れてしまう。成功した人だから、と日本に連れてきても日本代表にはまるかと言えば全く別のこと。日本人のいい部分を尊重して伸ばしてくれる指導者に何を求めるか。そう紐解いた時、浮かんだのがフィリップでした」

 面識があったわけではないが、母国のフランス代表だけでなく欧州のクラブで実績を残したブランのことはよく知っていた。さらに惹かれたのは、ディフェンス力の向上に定評があることだった。

資料をまとめ、ワルシャワ空港で交渉

「日本の男子バレーは長年、サイドアウト率を上げることに注力してきました。なぜか。ナショナルチームの戦いでは、サイドアウト率で上回ったチームの勝率は8割を超えているからです。ところが、どんな監督が取り組んでもサイドアウト率が上がらない。だから逆の発想で、ブレイク率を上げることで相手のサイドアウト率を下げることができるのではないかと考えたんです。そうなれば相対的に相手のブレイク率を下げることでサイドアウト率が相手よりも上回ることができる。そのために、必要なのがディフェンスだった。だからフィリップだ、と」

 日本代表強化のために着手すべきポイントやコーチとして求めること。営業マンさながらに資料をまとめ、交渉のためにいざポーランドへ向かい、ワルシャワ空港に程近いホテルのラウンジで対面した。最初からうまく事が進むはずはないと覚悟していたが、交渉は難航を極めた。

【次ページ】 ブランの関心を引いた李と藤井のクイック

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