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バレーボールPRESSBACK NUMBER
「19歳の石川祐希や柳田将洋を見た時に…」中垣内祐一はなぜ“頑固なフレンチシェフ”に日本を託したのか? 男子バレー“ブラン監督”誕生秘話
posted2023/11/14 11:00
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
NumberWeb
見慣れたジャージ姿ではなく、ビジネスシャツ姿でパソコンをのぞき込む。
「字が小さいと見えないんだよね」
日本代表監督として臨む記者会見の壇上でも、同じようにメガネをかけてデータを見ながら試合を分析する姿は何度も見てきたが、表情はまるで違う。胸に日の丸をつけ、自国開催のプレッシャーと向き合ったのが遥かに遠い日々であるかのように。差し出された名刺には、こう記されていた。
《福井工業大学 スポーツ健康科学部 教授 中垣内祐一》
「(現日本代表監督の)フィリップ(・ブラン)のことを、僕はプロフェッサーと呼んでいたんです。でも今は『お前のほうがプロフェッサーじゃないか』と(笑)。選手、指導者としての経験、さまざまな知識とノウハウを持ったフィリップこそ、まさにプロフェッサー。頼れるコーチです」
「フレンチシェフが和の食材を使って…」
2021年の東京五輪を終え、同年9月のアジア選手権を最後に日本代表監督から退いた。国際大会では解説も務めるなど今もバレーボールに携わってはいるが、日本代表やJVAのスタッフとして残らず、一定の距離を置いている。監督就任の経緯を初めて明かした2022年7月のインタビューでも「ここまで話すのはこれが最後」とも話していた。
だが、ネーションズリーグで銅メダルを獲得し、パリ五輪予選でも2位に入って出場権を獲得。進化が止まらない男子バレー日本代表を中垣内はどう見ているのか、どうしても聞きたくなった。そして、そもそもなぜ「彼ならば任せられる」とブランを選んだのか。
「男子バレーが強くなった、と言われるのは本当に嬉しいです。でも急に強くなったか、と言われるとそうではなくて。(身長)2mの素材を他競技に流れることなくバレーボールの道へ引っ張ってくれた先生方。何もできなかった10代の彼らを辛抱強く育て、強化してきたさまざまなカテゴリーにおける指導者の方々。多くの人の努力があった。料理にたとえるならば、一流の素材をあちらこちらから必死で集め、最後に味付けをして盛りつけたシェフが“素晴らしい三ツ星シェフ”(ブラン)だった、ということなんです。
彼はフレンチシェフで、これまでは欧州の料理が専門だったけれど、和の食材を使っても素晴らしい料理を仕上げてくれた。一朝一夕でできたものではないんですよ」
日本男子バレー復活へ。ブランと共に歩んだ日々を、中垣内が回想した。