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甲子園の風BACK NUMBER
ドラフトウラ話「指名漏れを思うと当日会見は…」「調査書の数は公言していいのか」無名公立校“テレビに映らない”ドタバタ現場《ヤクルト育成2位》
text by
井上幸太Kota Inoue
photograph byKota Inoue
posted2023/11/02 06:02
島根の公立校・三刀屋(みとや)から初のプロ野球選手となった髙野颯太
最後の可能性をかけた育成ドラフトが始まると再び「た」攻めである。DeNAが育成1位で高見澤郁魅、ロッテが武内涼太と、興奮と静寂が行き来する。
こうして時計の針が20時を回ったころ、本物の歓喜が訪れる。
「第2順選択希望選手……髙野颯太」
仲間たちが一斉に立ち上がり、歓声が響き渡る。指名したのは東京ヤクルトだった。喜びと、一日中続いた緊張からの解放。仲間に祝福され、目に涙を浮かべる髙野。その様子を感慨深そうに見つめる國分監督。選手、監督ともに初体験の連続だった激動の日々が、一つのゴールを迎えた瞬間だった。
「すべて初めて…」悩み続けた1年
東京ヤクルトは、先に触れた外野ノックの視察を希望しなかった球団のひとつ。國分監督が悩み抜いて決断し、夏が終わった後も正解か否か煩悶し続けている「1番・三塁手」だからこそ生まれた縁だった。
國分監督は、夏の大会から約3カ月の月日が経った今でも夏の初戦敗退について考え込むことがある。自分にもっと知識や経験があれば、髙野のプロ入りと悲願である甲子園出場を両立させられたのではないか、という悔いが大きいからだ。
一方で「経験がなかったから、夏前の絶不調で評価が落ちても、髙野のプロ入りを諦めなかったのかもしれない」との思いもある。わからないから最後までもがいた。もがいたから、歓喜の未来へつながった。
教え子がプロで活躍したとき、「髙野がいたチームで甲子園に出ていれば」という思いが再燃するかもしれない。でも、それは今よりもずっと幸せな思いとして再び湧き上がるはずだ。