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「8球団からドラフト調査書」島根の“山の中にいた”18歳…三刀屋の髙野颯太とは何者?「巨人の岡本和真を思い出す」「球場が震えた衝撃弾」
posted2023/10/23 06:00
text by
井上幸太Kota Inoue
photograph by
Kota Inoue
約1年前、中国地方のある指導者から、こんな質問を投げかけられた。
「“さんとうや”って、どんなチームですか?」
きょとんとしていると、その指導者が続ける。
「あのチームですよ、島根で勝ち上がった……」
この補足でようやく、要領を得た。私が島根の高校野球を取材していると知っていたその指導者は、昨秋の島根大会で準優勝し、中国大会の出場権を獲得していた「三刀屋(みとや)」が、どんなチームかを尋ねていたのだった。
誤読も致し方ない…事情
“さんとうや”と誤読されたこのチーム、正式名称は島根県立三刀屋高等学校という。学校所在地は、2004年の平成の大合併で雲南市となったが、それまでは長らく飯石(いいし)郡三刀屋町。地名にちなんだ校名だ。市のメイン道路から少し外れた、かつて食堂や商店でにぎわっていた趣きを感じさせる通りから細い道を一本入ると、小高く、山々に囲まれた風情ある校舎が目に飛び込んでくる。余談だが、地域での愛称は校歌にも登場する「三高(さんこう)」で、それを思うと、誤読も致し方ない……気もしなくはない。
野球部は1978年夏に甲子園初出場。以降の出場はなく、熱心な高校野球ファンにとっても“難読”だったであろう「三刀屋」の名前が、一人のスラッガーの活躍によって一躍知れ渡った。
球場が沸き立った“鮮烈弾”…一躍ドラフト候補に
右打席から雄大な放物線を描く強打者の名は、髙野颯太。入学直後から公式戦に出場し、県内では知られた存在だった。
その評判が昨秋、島根県外へと飛び出した。同校57年ぶりに出場した中国大会のことだ。
宇部鴻城と対した初戦の初回。「1番・中堅手」で出場していた背番号8は、2球目の直球を捉えると、打球はぐんぐん伸びてレフトスタンドへ。鮮烈な先頭打者弾に球場は沸き立った。
さらに2打席目は右中間への二塁打、3打席目にも単打を放ち、三塁打が出ればサイクル安打達成という打棒を披露。大会の約1週間前に巨人からドラフト1位指名を受けた同じ右打ちのスラッガーに重ねられ、「山陰の浅野翔吾」と呼ばれるようになった。