熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
ラグビーW杯現地観戦したら“日本代表ユニで応援ヨーロッパ人”だらけ「旅行して気に入ったよ」「マナーが素晴らしい」最初は半信半疑だったが…
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byHiroaki Sawada
posted2023/10/28 11:01
日本vsサモア戦後のスタジアム。日本人以外がブレイブブロッサムズのユニフォームを着ている姿が目についた
「今年の春、家族で日本へ旅行して、皆、日本がとても気に入ったんだ。息子はラグビーが大好きで、お土産に日本代表のジャージーを買ってきた。『今日は日本を応援するんだ』と朝から大張り切り。もちろん、我々も日本の勝利を願っている」
――日本を旅行して、何が気に入ったのですか?
「伝統とテクノロジーが共存し、見事に調和しているところ。神社仏閣の荘厳さと美しさ、どこへ行っても安全で清潔なところ、人々の礼儀正しさとやさしさ――。すべてが素晴らしかった。ぜひまた行きたいね」
横で話を聞いていた男の子は「アレー・ジャポン!」(レッツゴー・ジャパン)と小さな両手を握り締めた。
私たちは、日本文化が大好きなの
大きな日の丸を手に持ち、法被のような服を着て、頭に日の丸と「必勝」の文字が入った鉢巻をしている若いカップルもいた。
――おふたりはフランス人ですか?
「いや、イングランド人だ」
――どうして、日本を応援してくれているのですか?
「私たちは、日本文化が大好きなの。2015年W杯で南アフリカに劇的な逆転勝利を収めたのを見て感動し、以来、日本のラグビーを応援している。残念ながら2019年大会には行けなかったけれど、この大会ではイングランドと日本の両国を応援しているわ」
――イングランドは、この前の試合で日本を倒しました(注:9月17日、プールD第2節で対戦し、イングランドが34-12で勝利を収めた)。
「もちろん母国を応援していたが、日本にも頑張ってほしいと思っていた。日本は素晴らしいチームで、イングランドが勝てたのは幸運だった」
フェアで勇猛果敢なプレーがマッチした?
3万3000人を収容するスタジアムは、ほぼ満員。サモアは南太平洋に位置する人口わずか21万人ほどの小国で、サポーターはせいぜい数十人程度か。観衆の大半が日本を応援しており、日本のホームに近い雰囲気だった。
大歓声の中で試合が始まり、日本が前半13分のピーター・ラブスカフニのトライを皮切りに得点を重ねた。
ラグビーは、信じられないほど過酷なスポーツだ。鍛え抜かれた肉体を持つ巨大な男たちが、何の防具も付けず、生身の体でフルパワーでぶつかり合う。普通の人間なら骨折したり、むち打ち症になったり、脳震盪を起こすような衝突の連続。誇張なしに命懸けのスポーツで、見ているだけで痛い。「うわっ」と声が出てしまう。
しかし、選手たちは吹っ飛ばされても地面に這いつくばって痛がる素振りすらみせず、すぐ立ち上がって戦いに戻る(倒れたままの選手がいるときは、本当に故障して体が動かないときだ)。フットボール選手のように、痛みを誇張して主審にファウルの判定やカードを出させようとしたり、ピッチに不要に長く倒れて時間稼ぎをすることはまずない。欧州のラグビーファンに「フットボールも好きか」と聞くと、このような点を挙げて「臆病者のスポーツ。大嫌いだ」と言い放つ人が見受けられた。