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「藤井聡太さんは崖を覗き込むような怖さ」「めちゃくちゃ可愛い」瞬間も…カメラマンが「羽生結弦選手に似たもの」を感じた理由
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byYomiuri Shimbun
posted2023/10/26 06:00
2021年の竜王戦第1局、昼食休憩から早く戻った藤井を正面から捉えた若杉お気に入りの一枚
竜王戦では対局中もずっとリモートカメラで撮影する試みを始めています。藤井さんは考えながらもぞもぞ動いたり、頭に手をやったりするので、仕草や表情を追ったら面白そうだなと思っていました。
やってみて分かったのは、盤上の優劣がすごく顔に出るということ。僕は別室で中継を眺めながら撮影しているわけですが、AIの評価値が切り替わるのと藤井さんの表情が変わるタイミングが同じなんです。形勢が悪くなると、もがくように考えて、良くなると自信が戻る。こちらが“表情形勢判断”をした後、中継の数字を見てみると実際にそうなっている。AI並みと言いますが、もうAIと同じなんですよね。
ただでさえ長い集中力を要求される棋士の中でも、藤井さんはその集中が本当に深くて長い。そこが凄みだと思います。
対局中は棋士の波が途切れたタイミングで動こうと思うのですが、藤井さんは全然途切れなくて、待っているといつまでも動けなくなってしまうんです。以前「考えているときにチョロチョロしちゃってすみません」と言ったら「えっ?」と驚かれました。本人はまったく気づいていなくて「シャッター音がしなければ全然大丈夫です」と。
「羽生結弦選手と似たもの」とは
僕が現在担当しているフィギュアスケートで言えば羽生結弦選手に似たものを感じます。
羽生選手も演技直前の6分間練習など本当に集中している時は練習でさえ怖い。トゲトゲした感じではなく、ヒリヒリとした緊張感をまとっています。それなのに試合が終わると、途端ににこやかになったりする。そんなところも似ています。藤井さんも対局後に話すと楽しそうに笑うし、笑顔も可愛い。本当にさっきレンズ越しに向き合って怖い思いをした人なのかなと。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。