その姿を追うカメラマン、番勝負の舞台の女将、地元東海棋界の重鎮、将棋中継の革命者、将棋沼にハマった芸人、女流棋士にして観戦記者。6人が間近で見て、感じて、魅了されたヒーローの横顔を明かしてくれた。
初めて藤井さんを撮ったのは5年前、まだプロデビューしたての頃でした。29連勝をした日の朝に、対局開始の撮影に行ったんです。ものすごい数の報道陣の中にスーッと入ってきてお茶を飲んで一息つく14歳。慣れている僕らでもギョッとするような騒々しい現場なのに、これは只者じゃないなと思いました。
ただ、将棋担当でもなかったので、それからは機会がありませんでした。2020年の竜王戦七番勝負をきっかけに将棋に関わり始め、久々に藤井さんを撮影したのが昨年2月のランキング戦、関西将棋会館での広瀬(章人)さんとの対局でした。
いやあ、すっかり様変わりしていて驚きましたね。御上段の間に入ったら、昼食休憩を切り上げた藤井さんが一人ですごく集中して考えている。その集中力の圧迫感が部屋を支配していて、覗き込んだレンズまで押し込まれるようでした。14歳の頃は周囲の圧に動じない非凡さだったのが、もう自ら圧力を発する側になっていました。
対局中はマスク姿で、目は前髪でほとんど隠れている。普通の被写体だったら何を撮ったのかわからない写真になってしまったと思います。だけど藤井さんは違う。鼻も目も口も見えなくても、歴代永世名人の掛け軸を背負って考える姿がとにかく様になっていました。
対局中、棋士の正面に回り込んだ時に一番怖いのが藤井さん。静かだからと安易に近寄ってみたら、とても危険な場所だったと気づくんです。猛獣の怖さというより深い崖を覗き込んだような怖さ。でも、良い表情の写真が撮れるんです。怖いけど好きな場所ですね、あそこは(笑)。
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photograph by Yomiuri Shimbun