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格闘技PRESSBACK NUMBER
“ロシア軍最強の男”ハリトーノフがシュルトの顔面を血まみれに…「殴るというよりも破壊」カメラマンが震えた“最も凄惨な試合”の記憶
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph bySusumu Nagao
posted2023/10/06 17:25
冷酷なマウントパンチでセーム・シュルトを追いつめるセルゲイ・ハリトーノフ。あまりの凄惨さに、客席からは悲鳴もあがった
対するシュルトは空手がベースのファイターで、22歳で初出場したパンクラスを皮切りに、UFC、PRIDE、K-1、GLORYなどMMA・立ち技を問わず数々の団体で活躍。212センチの長身を武器にキックボクシング界を制圧し、10年前に心臓病で引退するまで『K-1 WORLD GP』で4度も頂点に立っている。
「こいつの戦い方は人を殺しそうだな」
目潰しと噛み付き以外が許された初期のUFCから今日に至るまで、私は数々の試合をリングサイドで撮影してきた。その中でも、この試合こそが「最も凄惨だった」と考えている。この2人には、ヴァンダレイ・シウバ対クイントン・“ランペイジ”・ジャクソンのような遺恨はなかった。それにもかかわらず観客からは悲鳴が上がり、場内を凍り付かせ、地上波での放送が大幅にカットされた。
その理由はハリトーノフが見せた「残酷さと狂気」にあるのではないか。いかに格闘技とはいえ、両手の自由を奪われた相手が一方的に殴られる姿を人は見たくないのだ。
いまでも覚えている。パンチが振り下ろされるたびに、リングサイドまで返り血が飛んできた。そのうちのいくつかはカメラのレンズに付着してしまい、撮影中だったが拭き取りながらシャッターを押した。そしてこう思った。
ここは戦場ではなく、レフェリーのいるリングなのだ。もう止めてくれ……。
試合後のシュルトは、以下のようにコメントしている。
「俺は……怖かった。手も足も出なかったよ。病院へ行こう」
また、試合を控えた選手たちも、ロッカールームのモニター画面でこの凄惨な光景を目にしていた。ヒース・ヒーリングは怯えた表情で「怖いよ、このロシア人。怖え」とつぶやき、ケビン・ランデルマンも「こいつの戦い方は人を殺しそうだな」とマーク・コールマンに語りかけていた。
一方で、ヒョードルだけはひとことも言葉を発せず、冷静に試合を見つめていた。練習仲間だった彼は知っていたのではないだろうか。ハリトーノフならあれくらいは当たり前にやってのけるだろう、ということを。