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猪木さんが動いている? 精巧すぎるアントニオ猪木像の魔法…80歳のベテラン石膏師も驚嘆「いい作品には“圧”がある」「すごいもの作りましたねえ」
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2023/09/12 17:36
石膏をかけられたアントニオ猪木像の原型(粘土像)。80歳のベテラン石膏師・井野雅文さんの職人芸によって、石膏の雌型が作られていった
「猪木さんが動いている…」
猪木の顔の内側に、動画モードでカメラを向けた。すると、不思議なことが起こった。いたずら好きの猪木さんが、また、いたずらをしているんじゃないかとさえ思った。
猪木が動いているのだ。猪木が表情を変えている。正確には、角度によって表情を変えているように見えた。
「猪木さんが動いている……」
私は思わず声をあげてしまった。
撮りながら北井さんにそれを見せると「だまし絵のようなものですかね」と言われた。井野さんは「すごいもの作りましたねえ」と言って、北井さんを見て笑った。
猪木はビューアーの中で、ジロリとバケツに入った自分の顔を見下ろした。それはハリウッド映画の特殊メイクのようでもあった。
「大きいですね。(このサイズは)めったにないですね。実物より一回り大きいとは聞いていましたが、大きいなあと思いました」
井野さんはそう話した。
「なんか他にいい方法がないかなとも思うんです。でも、機械を使ってやるには、それを動かさなくてはならない。だから結局、この作り方が一番です」
井野さんは重い石膏を一人で車に積み込む。「扱いに慣れているからでしょう」と簡単に言う。
「みなさんより軽く(石膏を)付けるから。粘土像のまま二人で運んで工場に持って行ってやったら、本当は石膏を吹き付ける前のこういうビニールの養生がなくていいんじゃないですか。だから、二人いたら最強ですね」
石膏の雌型になった猪木は、井野さんによって東京のアトリエに運ばれた。
<#3「猪木像完成」編に続く>