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「もう俺はいいから外してくれ」西田有志が涙の直談判…男子バレー歴史的快挙のウラで豪快エースが苦しみまくった理由「イップスみたいな状態」 

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田中夕子

田中夕子Yuko Tanaka

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photograph byYuki Suenaga

posted2023/09/07 11:15

「もう俺はいいから外してくれ」西田有志が涙の直談判…男子バレー歴史的快挙のウラで豪快エースが苦しみまくった理由「イップスみたいな状態」<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

アジア選手権に向けた8月の代表合宿中にインタビューに応じた西田有志。苦しい思いを抱えたまま戦っていたネーションズリーグの時間を振り返った

 どの歯車が狂っているのか、理由を紐解きたい。時計や車を修理するように1つ1つのパーツを分解して並べて、納得いくまで調べることができれば答えは見つかったかもしれない。だが、時間は待ってくれないし、次々試合もやってくる。さらにネーションズリーグは一戦一戦の勝敗も世界ランキングに直結する。さまざまなシチュエーションを考慮しながら、結果も求めなければならない大会だ。

 西田の異変を感じ取った指揮官フィリップ・ブランは名古屋での最終戦となった6月11日のフランス戦で、ついに西田に代えて宮浦を起用する。

 そして、宮浦がその期待に応えて13得点を叩き出した。

 普段から決して言葉数が多いわけではない宮浦が「絶対にやってやる、と燃えていた。巡ってきたチャンスを逃したくなかったし、負けたくなかった」と口にするほどの気合と、重ねてきた準備が見事に結果として現れた。

 さらに続くフランス大会でも宮浦の出場機会は増えていく。フルセットの末、公式戦では30年ぶりに勝利したブラジル戦も宮浦がフル出場し、主将の石川祐希に次ぐ24得点を叩き出した。

 どちらがいい、どちらが悪いではなく、現状のコンディションとパフォーマンスを考慮した結果。大会後に石川が「誰が出てもそれぞれの役割を果たせるのが今の(日本代表の)強さ」と何度も口にしたように、宮浦の活躍は日本代表にとっては喜ばしいことである。

 西田自身もそれを理解し、何より「宮浦さんの活躍で自分もチームも助けられた」と安堵していたのも事実だ。しかし、頭ではわかっていても、考えれば考えるほど心が沈む。不調にあえぐ西田が見た宮浦のプレーは、それほど完璧に近いものだった。

ブラン監督に涙の直談判

 フィリピン大会が始まってすぐ、西田はブラン監督と個別に話す機会が設けられ、今の自分に何が足りないかを指摘された。言われるまでもなく「わかっていてもできない」現実が悔しくて、もどかしてくて涙が出た。

 だから、言った。

「『もう俺はいいから外してくれ』って。宮浦さんもいるし、西山(大翔)もいる。自分と向き合う時間が欲しかった。折れたわけじゃないけど、もうギリギリ。折れかけていました」

 折れかけた西田をつなぎ止めたのは、他でもない。同じポジションを争う宮浦の存在だった。

【後編では“宮浦視点”で2人のライバル関係を紐解いた。】

#2に続く
「追いつけない自分が悔しかった」“静かなるエース”宮浦健人が明かしたライバル西田有志への本音…躍進続く男子バレー〈エリートの逆襲〉

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