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岡田彰布、原辰徳、立浪和義…“名選手、名監督にあらず”は本当か? 名将・野村克也が語る「上手に戦う指揮官がやっていること。それは…」
text by
野村克也Katsuya Nomura
photograph byTamon Matsuzono
posted2023/09/23 11:03
「名選手」にして「名監督」だった野村克也氏
チームのブランドコンプレックスを取り除く上で、また、選手を鼓舞する上で「長嶋さんは○○だから」「巨人軍は××だから」など、ことあるごとに “口撃” した。
相手も、これを真に受けて反発してきた。マスコミもすぐに「野村vs 長嶋の遺恨」「ヤクルトvs巨人の因縁」という図式を作り上げた。93年はヤクルトが日本一で、巨人が3位。以後、94年は巨人、95年はヤクルト、96年巨人、97年ヤクルト......と、交互に優勝。大いにプロ野球を活性化させたと、自負している。
イチローへの“口撃”の真相
95年のオリックスとの日本シリーズでも、私の “口撃” は一定以上の効果を生んだ。標的としたのは、前年にシーズン210安打のプロ野球記録を樹立し、同年に首位打者、打点王、盗塁王を獲得したイチローだ。
日本シリーズを見越して、シーズン中から「イチローの弱点を探してくれ」とスコアラーを派遣した。答えは「弱点がありません。打たれることは覚悟してください」。そのため、ここは “口撃” しかないと判断した。シリーズ直前、マスコミの前では必ず、「弱点はインハイ。内角をどんどん攻めます」と発言しておいた。
イチローも、テレビで耳にし、新聞で目にしていたのだろう。本番になると、明らかに内角を意識し、右肩の開きが早く、壁が崩れていた。もちろん、実際に攻めたのは外角。第1、2戦で計7打数1安打に抑え、ヤクルトは連勝。これがモノをいって、4勝1敗で日本一になっている。
最近は監督の言動に“色”がない
最近は、レギュラーシーズンどころか、クライマックスシリーズ、日本シリーズにおいても、監督の言動に “色” がない。「自分たちの野球をするだけです」「選手を信頼しています」などと、同じようなセリフしか出てこない。
確かに、試合中の主役は、あくまで選手である。先にも指摘した通り、監督が “疎外感” にさいなまれて、必要以上に動いたり、目立とうとしたりしてはいけない。
しかし、練習、ミーティング、マスコミ対応など、試合が始まるまでは、監督が主役であり、情報発信者である。チーム、リーグ、そして球界全体を盛り上げていく責任があると、私は考える。