オリンピックPRESSBACK NUMBER
「プロジェクト・ハルカ」世界陸上金メダル・北口榛花が歩んだ“無名のチェコ人コーチ”との5年間「ハルカが一番になるって信じていた」
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byJIJI PRESS
posted2023/09/05 17:05
世界陸上ブダペスト、女子やり投げで金メダルに輝いた北口榛花
出かけるところもないんですよ、と北口は以前冗談混じりにぼやいていたが、ドマジュリツェの街にすっかり馴染み、道ゆく人は皆、彼女の存在を知り、チェコ選手と同じくらい北口を応援している。
コーチの家族の存在もとても大きい。奥さん、息子さん、娘さんも遠い日本から来た「ハルカ」に家族の一員のように接する。
「ハルカは家族なんだ」
ドマジュリツェから8時間近い運転を買って出た21歳の息子デビッドはそう教えてくれた。
「ハルカの勇姿を皆で応援しよう」と家族だけではなく、練習仲間、家族の友達など10人近くがブダペストに応援に駆けつけた。
「ハルカが一番になるって私は信じていた。だってハルカは本当に頑張っていたから」
14歳になったモニカは「自慢のお姉ちゃん」の大快挙を自慢そうに話す。それは北口を応援する全ての人の思いを代弁しているように聞こえた。
飛躍の鍵は”継続した練習”
今季の北口の飛躍の鍵の一つに「助走」がある。
これまで助走で加速しても最後に足をクロスする部分で減速することが多かった。しかし今季はリズミカルかつスピードのある助走で、そのスピードをやりに乗せることができるようになった。セケラックコーチは「指導するようになって約5年になるが、この2年、冬季練習をずっと見ることができた。ハルカは冬季練習に本当にしっかり取り組んだ」と愛弟子を褒める。
「投擲選手のなかではウェイトが弱い」
北口はそう話していたが、オフにはウェイト練習にも少し手を加え、徹底的に行った。
「重量にこだわるのではなく、70~80%の重さで正しい動きで速く上げる練習も行った」
北口のしなやかさ、柔軟性を保ったままでパワーをつけるために、コーチは工夫を凝らし、プログラムの改良につながっている。
「体幹はもう少し強くなると思う」
セケラックコーチはニヤリと笑いながら教えてくれたが、次の戦いに向けてすでに次の練習を頭に描いている。
逆転を信じた6投目
8時20分の競技開始にもかかわらず、気温は30度、湿度も50%と蒸し暑い。北口が準備をするフィールドは照り返しもあった。その影響か足が攣り、1投目は61m78にとどまる。
「水を飲んで、マッサージとストレッチをしろと指示を出した」
セケラックコーチはそう振り返る。